チェスの強豪国について考えてみた ーEのチェスコラム4ー

もうすぐチェスオリンピアードが開催されるということで、今現在のチェスの強豪国について私が思うことをコラムにしてみます。

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アメリカ合衆国 ーなぜこうなったー

私がここ20年ほどチェスを見ていて、なぜこうなったという印象しかないのがアメリカ合衆国です。近年、多くの世界トッププレイヤーがチェス籍をアメリカに移動し、今や国別ランキングでは世界トップです。チェスは、ラグビーなどの競技と同様に国籍以外の国に所属し、代表になることもできます。

アメリカに移籍したプレイヤーには、カルアナ(世界選手権挑戦者、世界ランキング4位)、アロニアン(世界ランキング5位)、Wesley So(世界ランキング6位)、ドミンゲス(世界ランキング14位)がいます。

これに加えて、アメリカには世界一有名なチェスストリーマーことナカムラヒカルがおり、現状で世界最強国がアメリカなのは間違いないでしょう。

ナカムラヒカル

アメリカといえば、かつてフィッシャーがおり、さらに昔にはモーフィーがいました。チェスの強豪国というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、歴史を見ると強豪国とまではいえなかったと思います。現在でもトッププレイヤーを集めたトーナメントなどは開かれていませんし、やはりなぜこうなった。

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ロシア ーかつての最強国ー

ロシアが長い間世界一のチェス大国であったことを知る人も多いでしょう。今でも多くの強豪プレイヤーがおり、先日のCandidateで再びカールセンへの挑戦権を得たニポ(世界ランキング7位)、プーチンを支持する発言でCandidateから追い出されたカリャーキン(世界ランキング16位)、前回のCandidateに出場していたグリシュク(世界ランキング17位)がいます。

ただ、私がチェスを始めたころに比べると随分と衰えたという印象があります。2000年代中頃までのトップトーナメントには、カスパロフ、クラムニク、グリシュク、Svidler、Morozevich、Barrevなどがおり、プレイヤーの半分近くがロシア人ということも珍しくありませんでした。今のようにヨーロッパのプレイヤーが増えている状況は当時からは考えられなかった気がします。

中国 ー最強国の未来はあるかー

中国も世界有数のチェス強豪国です。現在のエースはCandidateにも出場したDing Lirenで、レート2800も記録しており、いつカールセンに挑戦することになってもおかしくないプレイヤーです。

Ding Liren

中国に関しては私はやや気になることがあります。中心となるプレイヤーの入れ替わりが激しいのです。国策で一人のプレイヤーに力を入れている印象があり、注目されていたプレイヤーが数年するとヨーロッパのトーナメントに出てこなくなります。

トップトーナメントに出場していた中国プレイヤーとしてはWang Yue、Bu Xiangzhi、Wang Hao、Wei Yiなどがいます。

トップトーナメントに長く出場して活躍するプレイヤーがいなければ、いくら強くなってもチェスが中国で文化として根付かないのではないかと心配になります。私は10年以上前に、10年後にはトップトーナメント参加プレイヤーの半分は中国選手になる、などと放言していた時期がありましたが、しばらくそのような事態は起こりそうもありません。最強国への道はまだ遠そうです。

インド ーアナンドの次は?ー

インドはアナンドが世界チャンピオンになって以来、チェスブームが起こっており、最年少GMを輩出しているように若年層の活躍が目立ちます。

Anand

トップに近い強豪GMとして、Sasikiran、Harikrishna、Viditといったプレイヤーもおり、国別チーム戦でも強い国です。

ただ、どうしても気になるのは、本当にトップのプレイヤーというといまだAnand以外にいなということでしょうか。確かに、Top of Topのプレイヤーはどこの国でもあまりいないのでしょうが、中国と比べてもトップトーナメントに食い込んでいけるプレイヤーが少ないです。何か構造的な問題があるのか、それともまだ発展途上なのか、今後が気になります。

ウクライナ ー戦うならチェスがいいよねー

現在ロシアと大変なことになっているウクライナですが、チェスの強国でもあります。21世紀に入ってからのチェスオリンピアードはロシアが最強と見なされつつも、ウクライナやアルメニアが優勝を攫っていくということが何度もありました。

ウクライナと言えば、世界チャンピオンになる才能があったと言われるIvanchuk、ノックアウト式の最後の世界チャンピオンPonomariovが有名ですが、現在のレーティングリストを見ると、IvanchukがinactiveでPonomariovも国内ランキング9位です。

ランキング上位を見るとEljanov、Volokitin、Kovalenko、Areshchenkoあたりは私も見覚えがありますが、全体にやや地味な印象でベスト10までレート差もほとんどない感じです。ウクライナも次代のエースが求められている時期でしょうか。それよりも平和を、か。

フランス ー過去最強ー

歴史を見てもチェスの強豪国という印象のないフランスですが、現在はMVLとアレリザの存在により、過去最強レベルのチーム力を持っている気がします。フランスで強いプレイヤーって、私的にはフィルドール(18世紀の世界最強プレイヤー)しかイメージにないよ。

アゼルバイジャン ーツートップー

アゼルバイジャンは旧ソ連圏のチェス強豪国です。フランスと同じく二人のエースがいます。ラジャボフとマメジャノフです。どちらもトッププレイヤーですが、ドローが多い印象のラジャボフと攻撃的なマメジャノフで対照的なスタイルです。

また、アゼルバイジャンにはもう一人ガシモフというとても強いプレイヤーがいたことにも触れておきたいです。現代のトッププレイヤーの中では珍しいモダンべノニを得意としており、最高で世界ランキング6位までなっています。

ガシモフ

彼は若いころから脳腫瘍を患っており、2014年、27歳の若さで亡くなっています。

アルメニア ーエースを失ったチーム戦強国ー

最後はアルメニアです。21世紀に入ってから2006年、2008年のチェスオリンピアードを連覇し、2012年も勝っています。もちろんエースはアロニアンですが、オリンピアードではほかのメンバーも頑張っているイメージがあります。

ただ、世界的に有名なプレイヤーと言えばやはりアロニアンだけで、そのアロニアンがいなくなった影響は大きいだろうと思います。アルメニアも次代のエースを探している段階でしょうか。

まとめ

オリンピアード前ということでチェスの強豪国についてまとめました。実はロシアと中国は参加しませんし、トッププレイヤーは必ずしもオリンピアードには参加しないので、優勝予測とはまた異なっています。それについてはまた別記事で書いてもいいかなと思っています。

著:アーヴィング・チェルネフ, 翻訳:水野 優
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