センターの重要性 ーチェス 序盤の基本ー

 チェスの初心者向けシリーズを立ち上げましたが、どうしても初心者向けコンテンツを作っているとむずむずしてくる(言い足りない)ので、チェスの基本シリーズとして初級者から中級者向けのコンテンツとして立ち上げようかと思います。また突然更新が止まり、やるやる詐欺になるかもしれませんが、生暖かく見守ってください。

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Introduction

 チェスをやりたい、強くなりたい、と思っても日本語の本で定跡(定石は囲碁用語なのでこちらの漢字の方が正しそうです)を勉強するのは難しいし、まず何を考えて指せばよいのか分からないという方も多いでしょう。

 ここでは、”The Ideas Behind Chess Openings”を参考にしながら考えて行きましょう。

 The Ideas Behind Chess Openingsはオープニングの考え方については扱った本で、私がチェスを始めた2000年代前半のamazon.co.jpではチェス関連書籍の上位常連でした。そう言われると古い本なんだと思うかもしれませんが、実際にはさらに古く、初版は1943年(!)、改訂版でも1989年です。定跡の本(といっても特定の変化に関する本ではないですが)であるにもかかわらず、これだけ長い間読み継がれてきた、名著といってよいでしょう。本書の中で著者のFineはチェスのオープニングにはnormal(普通)な手とabnormal(普通じゃない)な手があると語っています。そして何が普通で何が普通ではないのかということについて以下の二つをあげています。

1 その手が盤の中央(センター)に影響を与えるか
2 他のピース(駒)やポーンの展開に即した手であるか

 この二つを満たしていない手を普通ではない手と呼び、満たしている手を普通の手と呼ぶわけです。なぜ良い悪いという呼び方をしないかといえば、その手が良いか悪いかということは結局のところ実戦で試されることによって決まるからです(特にプロの人たちの実践によって)。とはいえ、プロであれ強いアマチュアであれ、何の判断基準もなく指し進めているわけではありません。上記2つのルールに沿わないようなオープニングの手があるにしても、どんなルールであれ例外があるのは当たり前で、そのルールを知らなければ例外の存在を理解することも出来ないわけです。

 と、話がそれてしまいましたが、今回は一つ目のテーマ、センターの重要性とその意味についてみていきます。

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センターの重要性

センターの定義

センターとは、狭い意味ではd4, e4, d5, e5の4マス、広い意味ではc3-c5-f5-f3で囲まれた下図の領域を示します。

センターの重要性

オープニングにおいて、まず意識されるべきなのはセンターの重要性です。

なぜ、センターが重要であるかを端的に表した図が下図になります。

c5の地点に配置されたナイトの行き先が8か所あるのに対してh1に配置した黒ナイトの行き先は2か所しかありません。これはルーク以外の他のピースにも当てはまることですが、チェスの駒はセンター(盤の中央付近)に配置されているほどその行き先が多くなります。つまり、センター付近に配置されているほどその駒は強力になります。

このことから

自分のピースが盤の中央付近に行くことが出来るようにし、敵のピースができないようにすることが重要になる。

では、敵のピースができないようにするとはどういうことなのか?

それには「支配」という考え方が重要になります。

支配とは

「支配」という概念に関してはまた別の機会に詳しく説明しようと思っていますが、要するに自分の駒はそのマスにいけるけれども、相手(敵の駒)はそのマスに行くことができない状況を指します。

ただしここで重要なのは、価値が低いピースのほうが「支配」に効果的であるということです。価値が低いピースとは交換すらしたくないので、ただ落ちだけでなくほかの駒に守られている場合ですらそのマスに入ることができません。つまり、ポーンで支配することが最も効率的なわけです。

センターの支配

上記を意識したうえで、「センター」について考えていきましょう。
下の図は、初手最もポピュラーな手である1. e4を指した直後になります。

上図を見ると、e4のポーンによってd5のマスとf5のマスが支配されていることがわかります。このマスにビショップやナイトを置きたくないですよね?といえばわかるでしょうか。

一方で、序盤での理想的なポーンの構造は以下の形になります。

e4とd4を突いた形であり、c5, d5, e5, f5の4マスを支配しています。

もし、白がこのポーン構造を維持することができれば、白のナイトやビショップは非常に活動的な位置に展開することができ、黒のナイトやビショップはパッシブな配置を余儀なくされるため、自然に白が優勢になります。

センターでの攻防

当然ですが、黒は白がd4, e4のポーンを維持することを許しません。例えば、フレンチディフェンスでは、d5と突くことにより、このポーン構造を崩しに行きます。

このような観点で言えば、初手e4の定跡はいかに白にd4,e4の形を維持させないかということを重視して進んでいるかということが理解できると思います。

それでは、d4, e4が維持できなければ白は優勢ではないのか?といえば、そんなことはありません。このことについては、また別の機会で扱いたいと思います。

ハイパーモダンの考え方

 ここまで説明してきた内容とは一線を画すものとして、ハイパーモダンという考え方があります。ハイパーモダンは20世紀初頭にNimzowitschRetiといったplayerによって提唱された(かどうかは詳しくは知りませんが)考え方で、センターをいきなりポーンで支配するのではなく、ピースによってセンターを間接的に支配し、相手の出方を見ながら柔軟な駒配置を目指すような序盤の考え方です。

 前述のとおり、ポーンでセンターを支配することが最も効率的ですので、それを放棄することは当時としては新しい考え方でした。そうはいっても、センター自体を軽視しているわけではありませんので、そのあたりは注意が必要です。

まとめ

  • チェスの駒はセンター付近に配置されているほど強力
  • センターの支配が重要
  • ポーンによる支配が効率的
定跡が秘めた狙い

著:アーヴィング・チェルネフ, 翻訳:水野 優
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本記事で参考にした本の日本語訳が発売されています。

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