クイーンズギャンビット解説 第7話 ーチェスプレイヤーの視点からー

昨年(2020年)世界中でヒットしたチェスをモチーフにしたドラマ「クイーンズギャンビット」ではチェスに関する用語などが多用されていますが、なんら説明がされていないことが多いです。

アメリカ人の方なら分かるからとか、説明が入っているとドラマの雰囲気を壊すからとか理由は色々あると思いますが、チェスに馴染みのない普通の日本の視聴者には難しいシーンも多い気がします。

本記事ではチェスプレイヤーの視点で説明を加えさせていただこうと思います。記事の内容上、ネタバレがある程度あるので、お気を付けください。

引用元「クイーンズギャンビット」 Netflix
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ベスの復活

この最終話でベスは、ある人とある出来事によって復活していきます。ネタバレになるので話しませんが、ベスが「チェスの天才である自分の価値」を再発見していく話といった感じでしょうか。

MCO

ベスが養子に出る際になくなっていたModern Chess Openingsがある人物から返ってきます。

トレーラーハウス

ベスが母親と暮らしていたというトレーラーハウスを訪れます。

「本当に絵に描いたような底辺白人だったのね」

というセリフがありましたが、私はフォレストガンプのヒロインが住んでいた家を思い出しました。

10ドル

私的に最終話のハイライトはここですね。お前返してなかったんか。第2話で初めてのトーナメントに臨んだベスがシャイベル氏に5ドル借りたわけですが、優勝して10ドルにして返すという約束は果たされていなかったようです。いや、人間としてそれはどーよ

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モスクワ

写真:Netflix 「クイーンズギャンビット」

(たぶん)すっかり復活したベス、モスクワに一人向かいます。

Nona Gaprindashvili

日本語の字幕では触れられていませんが、ロシアにも女子プレイヤーがいるというコメントの中でNona Gaprindashviliの名前が挙げられています。ソビエトのプレイヤーで1962年から1978年までの女子世界王者です。Wikipediaを見ると、1950年から1991年まで実に40年に渡ってソ連の女子チェスプレイヤーが世界王者として君臨していました。

1991年に中国のXie Junが世界チャンピオンになると、それ以降中国のプレイヤーが主に女子世界王者の地位を占めています。

大道チェス

モスクワの街を歩いていたベスは公園(?)でチェスに興じる老人たちの姿に興味をそそられたようです。ややファザコンだと思われるベスはチェスを指している老人が好きそうです。

公園などでチェスに興じることはさほど珍しい光景ではありません。映画「ボビーフィッシャーを探して」の中でも公園でチェスに興じる人たちを見ることができます。

以前は日本でも新橋駅周辺でピノーさんが中心となってチェスをやっていたようです。

写真

元世界チャンピオン ルチェンコ

独特の外見のルチェンコ、元世界チャンピオンということで、過去のセリフの中にも何度も出てきました。他のプレイヤーと同様にルチェンコという名前は実在のチェスプレイヤーではありませんし、モデルになっていそうなこの時代のプレイヤーもわかりません。ただ、外見に関してはこの人だろうというプレイヤーがいます。

Yusupovです。写真はWikipediaから持ってきましたが、もっと髪も髭もすごいことになっているイメージですが。Yusupovは1980年代のトッププレイヤーで、世界チャンピオンのカルポフ、カスパロフに次ぐ強さを誇るプレイヤーでした。

ArturJussupow13.jpg
写真:Wikipediaより

封じ手後の検討

上記のルチェンコとの対局は封じ手になりました。その夜、ベスは対局内容について相談するルチェンコとボルゴフの姿を目撃します。

ずるいと思われる人もいるかと思いますが、特に珍しいことではありません

かつてボビー・フィッシャーの時代に、チェスオリンピアードにおいてアメリカ合衆国とソ連の対戦がありました。その時ソ連の世界チャンピオン・ボトビニクと既に実力世界一とも目されていたボビー・フィッシャーが対戦しました。フィッシャーが白番(先手)で有利な局面で封じ手になりました。この際にそれぞれのチームメイトは自分の試合はそっちのけで徹夜で分析を続けました。どちらのチームもです。

このようなエピソードがタリのThe Life and Games of Mikhail Talの中で取り上げられています。

次の日、苦戦するのかと思いましたが、あっさりルチェンコを下します。

正直、もう強すぎて意味が分かりません。

シシリアンを逆に?

ラジオの解説者がベスの対局をイングリッシュで始まり、シシリアンを逆にした局面になったと表現しています。

イングリッシュは1手目PQB4の定跡です。分かりやすいように並べてみました。

この対局では黒がPK4と返したためにイングリッシュが白黒逆にしたシシリアンになっています。

ボルゴフ戦

さて、とうとうクライマックスのボルゴフ戦、ベスはPQ4と指しました。意外な選択です。

ボルゴフもPQ4と応じたとあるので、下図のような出だしのはずです。

ベスはPK4とキングの前のポーンを進める手を得意にしていたと思いますが、ここではクイーンの前のポーンを進めました。次にクイーン側のビショップの前のポーンを進めて、クイーンズギャンビットです。最後のクライマックスということで、タイトルの通りクイーンズギャンビットになったのでしょうか。

しかしボルゴフはPK4と進めたと解説は述べます。

このシーン、チェスプレイヤーならば「え!?」となるところです。
この手はアルビンカウンターギャンビットと呼ばれる定跡で以下のようなポジションです。

チェスを知らない人には伝わらないかもしれませんが、中央でのポーンの配置、変じゃないですか?この定跡はかなりトリッキーな定跡で、世界のトップではまず指されません。また、ボルゴフのような世界チャンピオンで、しかも見るからに重厚そうなプレイヤーが指す定跡ではありません。

ボルゴフからのドローオファー

対局の途中、ボルゴフはベスにドローを提案します。別の記事でも書きましたが、チェスでは提案と合意によってドロー(引き分け)にすることができます。通常、優位な側がドローを提案することがないため、少なくとも苦しい局面だと考えていることが分かります。

ちなみに、素人レベルでは、実力差のある相手との対戦で駒得になったときに自分からドローオファーをする人もいます。

一人歩くベス

写真:Netflix 「クイーンズギャンビット」

ボルゴフに勝利し、空港に向かうベス。お付きの人を置いて、街を歩きだします。この白のコートと帽子、まるでチェスのクイーンのようですが、ルークをイメージしたとどこかで見ました。

最後にまた公園でチェスをする老人たちに出くわしたベス。すっかり有名人で顔ばれしているため、囲まれてしまいます。このシーンの老人が意味ありげだと考えている人たちがいるみたいですが、私は特に意味があるように思いません。

老人たちが楽しくチェスを指しているのを見るのが好きなベスと、スーパースターに会えて喜んでいるチェス好き老人の幸せな光景という印象です。

最後に

本編でベスは世界チャンピオンのボルゴフに勝利しました。しかし、これは一つの大会の対局相手として勝利したに過ぎず、ベスは世界チャンピオンになったわけではありません。

つまり、チェスプレイヤーとしてのベスにはまだ続きがあるはずです。

アメリカの偉大なチェスプレイヤー達、本編でも名前が出てきたモーフィーやベスのモデルと思われるボビ・フィッシャーは世界の頂点に立った後、決して幸せな人生を歩んでいません。クイーンズギャンビットに続編があるかわかりませんが、このあたりの実在の天才チェスプレイヤーと比較して、ベスがどのように描かれるかは興味をそそられるところではあります。

まとめ

これでNetflix のドラマ「クイーンズギャンビット」の解説記事は終わりです。どうだったでしょうか。正直途中からかなり疲れてしまい、取りこぼしたネタもあったように思いますが、あまり細かな話までしてしまうのもどうかなという思いもありました。また、気が付いた点があれば、追記していく予定です。

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