クイーンズギャンビット解説 第2話 ーチェスプレイヤーの視点からー

昨年(2020年)世界中でヒットしたチェスをモチーフにしたドラマ「クイーンズギャンビット」ではチェスに関する用語などが多用されていますが、なんら説明がされていないことが多いです。アメリカ人の方なら分かるからとか、説明が入っているとドラマの雰囲気を壊すからとか理由は色々あると思いますが、チェスに馴染みのない普通の日本の視聴者には難しいシーンも多い気がします。本記事ではチェスプレイヤーの視点で説明を加えさせていただこうと思います。記事の内容上、ネタバレがある程度あるので、お気を付けください。

引用元「クイーンズギャンビット」 Netflix
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新たな生活

第1話の最後で向精神薬をバカ食いして倒れたベス、チェスも禁じられどうするのかと思っていましたが、養子先が決まります。新しい家、自分の部屋を手に入れたベスですが、編入した学校には慣れず、友達もいないようでした。

チェスへの情熱は失っていないようで、義母と一緒に洋服を買いに来たお店にチェスセットが置いてあるのを見ると買ってほしいと頼みますが、買ってもらえませんでした。

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カパブランカ

学校になじめないベスは図書館にチェスの本を探しに行きます。

司書にチェスの本はあるかと聞くと「どうかしら、端の本棚にあるかもね」と頼りない返答。ところが、その直後に「カパブランカの伝記がある」との発言があり、え?最初の発言は何だったの?って思いました。

それはともかくこのカパブランカ、第3代の世界チャンピオンでチェスの才能の塊という感じの天才でした。しかし、ベスは全く知らなかったので、カパブランカって誰と尋ねます。

司書「カパブランカ、昔のグランドマスターよ」

ベス「グランドマスターって?」

司書「天才プレイヤーのことよ」

グランドマスター

ここでちょっと「おいおい」と思いましたが、特に悪気はないのでしょう。本当にグランドマスターの定義を知らないかもしれませんし、細かな説明をしても仕方がないと思ったのかもしれません。

グランドマスターはチェスの国際的な称号の一つで、称号の中でも最も上位に位置しています。大会などに参加して所定の基準をクリアすると与えられるものです。要するにめっちゃ強いとなれるので、天才プレイヤーでも間違いではないかもしれません。

初めての大会

母のお使いで訪れたお店で、ベスはチェスの雑誌を見つけ、その中の大会情報に目を付けます。ですが、義父が家に戻ってこず、生活が苦しい状態で大会の参加費を工面できません。そこで、ベスはシャイベルに手紙を書き、大会後に10ドルにして返すので、5ドルの出場費を貸してほしいと懇願します。無事シャイベルからお金を借りることができたベスは大会に参加します。

初めての大会は1963年度のケンタッキー州大会。州のチャンピオンを決める大会なので、それなりのレベルのはずです。

レーティング

大会の受付に来たベスは受付の人からレーティングを聞かれます。ーティングとはチェスの実力を数値化した基準で、対戦の結果と対戦相手のレーティングによって変動する数字です。そのため、これまで大会に出たことがないベスにはレーティングがありません。しかし、ベス自身はレーティングが何かということについての知識はあるようです。

オープン部門

受付の二人はベスのことを心配して、ビギナー部門に登録しようとしますが、ベスは拒否。オープン部門に登録します。二人には悪気はなかったのでしょうね。

この「オープン」という言葉ですが、チェスだけでなく様々なスポーツ大会などにも使われる言葉だと思います。「開かれている」という意味合いで、参加資格がなく、誰でも参加できる形式です。なので、ベスの参加を拒否する理由もないんですよね。

レーティング1800超えが3人

先程レーティングはチェスの実力を数字化したしたものだと述べました。レーティングは大体1000ぐらいから2800ぐらいまでの数字であり、数字が大きいほど強い人です。

今、ここで言われているレーティングはアメリカのチェス連盟(USCF)が決めているものかと思います。USCFの基準で言うと、

2400以上 シニアマスター
2200以上 ナショナルマスター
2000以上 エキスパート
1800以上 Aクラス
1600以上 Bクラス
1400以上 Cクラス
…以下続く(Wikipeda参照)

といったカテゴリ分けがされています。国際的な基準とは違いますが、日本でもよく知られているカテゴリ分けです。この基準を見るとレーティング2000を超えると名称が全く異なっています。レーティング1800は通常の名称が使われる最も高いレーティングということもできます。要するにアマチュアレベルだと強豪と呼ばれる領域が1800かと思います。

実際、国内でもレーティング1800は多くの人に一つの壁として認識されています。

女性同士の対戦

ベスは大会の初戦でアネットという女性と対戦します。ベスはアネットに「なぜ女性同士?」と聞きますが、アネットは「偶然よ」と返しました。このやり取りにも含みが感じられます。

私にも詳しいことはわかりませんが、チェスの大会で女性同士を対戦させようという風潮があるようです。通常のオープン大会では機械的に対戦を決めるのでそのようなことが起こりません。しかし、招待選手で構成される大会などではそのようなこともあると聞いています。少し前の話になりますが、現状で女性最強のチェスプレイヤーであるHou Yifanが女性ばかりと対戦させられることに怒って、大会をボイコットしたことがあります。

投了直前にドローオファー?

ベスのゲームでドローオファーをして、断られて投了するというシーンがありました。チェスでは対局者によってドローが提案され、両者合意すればドローにすることができます。そういう意味では、どんなに負けていてもドローにできる可能性はあります。しかし、投了する前に念のためドローオファーしてみるとか、悪質というか女性をなめている気がします。

ただし、ドローオファーされた際にベスがタウンズの顔を見たシーン、首を振ることでドローを受けるなと指示しているように見えます。本来であれば、アドバイス行為として問題になりそうです。

レーティングがつくまで

受付の二人にもっと強い相手と当ててくれと詰め寄ったベスは「レーティングがつかないと無理だ」と言われてしまいます。今後の展開を見ればわかりますが、この発言は正確ではありません。レーティングがなくても勝ち続ければ強い相手と当たることができます。ただ、対戦を決めるやり方としてレーティングを持っていない人は強い相手となかなか当たれないので、時間というか対局数がかかるのです。

一方で、レーティングが付くには30試合が必要で4か月かかると言われています。これはおそらくこの時代のルールでしょう。現状の日本チェス連盟(NCS)の規定では5試合でレートがつくことになっています。おそらく、アメリカでもほぼ同じでしょう。この時代には手作業で計算をしていたので、このような規定になっているのだと思います。

タウンズとのゲーム

写真 netflix クイーンズギャンビット エピソード2

このシリーズの中でベスが唯一異性として好意を持っていたと思われるタウンズとの対戦です。

このゲームはこれまでのベスのゲームとは異なり、終盤と言ってもよいぐらい駒が減っています。そんな中、タウンズのミスが出て、最後は非常に面白い勝ち方になっています。複雑なので、これについては別記事にしようかと思います。

それはともかく、この終盤の形、私見たことあると思うんですよね。その元ネタが分かりませんでした。

僕のルークが泣いている

上述のミスの後にルークを狙われたタウンズのセリフ。随分詩的なセリフですが、実際のセリフは”you’re humiliating my rook”、「ルークがいじめられている」ぐらいのセリフですが、このセリフは阪田三吉の「銀が泣いている」への翻訳者のオマージュでしょう。阪田三吉は戦前の伝説的な将棋棋士。

ベルウィックとのゲーム

この大会の最後、州チャンピオンのベルウィックと対戦しますが、ベルウィックがなかなか現れません。ようやく表れてもあくびを連発あきらかに馬鹿にした態度で対戦に臨みます。めっちゃ態度悪い。

残念ながら態度の悪い人は実際のチェスの大会にもいます。ただ、全勝で勝ち残ってきた少女との対戦なんてふつうはガクブルだと思いますけどね。

ノータイムで指してくる

ただ、ベルウィックが時間を全く使わずに次々指していることが分かると思います。これは定跡を長い手順覚えており、時間を使う必要がないのです。わざと相手を威嚇するように早く指してくる人もいます。そのことはベスも認識しており、やや焦りが見えます。相手に比べて知識で劣っていることを理解しています。

その後も動揺が隠せず、文字通り涙目になりますが、トイレに立ち、例の緑色の薬を飲んで天井のチェス盤で検討をすると別人のような落ち着きで戻ってきます。そして、勝ちます。うん、個人的にはピンとこない展開ですが、よいことにしましょう。

このゲームには元ゲームがあり、下記リンクのゲームです。

Rashid Nezhmetdinov vs Genrikh Kasparian (1955)

まとめ

第2話の解説をしました。いかがだったでしょうか。ちょっとしたセリフや態度の中にも実は意味がある(ような気がする)ことが分かるかと思います。どうしても分量が多くなりがちなのですが、興味を持ったところだけでも抜粋して読んでくれればうれしいです。

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