ネットフリックスのクイーンズギャンビットはフィクションです。実在のチェスプレイヤーの名前などが出てきますが、主人公のベス・ハーモンやボルゴフは実在の人物ではありません。しかし、ベス・ハーモンに関してはおそらくモデルにしたであろう実在の世界チャンピオンがいます。
女性プレイヤーとしてモデルになったと考えられている女性については、別記事で扱っています。
ボビー・フィッシャー
チェスに馴染みのない方であればご存じない方が多いかと思いますが、ボビー・フィッシャーはアメリカ合衆国のチェスプレイヤーでおそらく歴史上もっとも有名な世界チャンピオンです。冷戦下の世界の中でソ連1強であったチェス界において、ソ連の強豪プレイヤーを蹴散らして世界チャンピオンになったことで母国の英雄になりました。このあたりの話は、2015年に完全なるチェックメイトという映画にもなっています。
制作陣の方が言及しているかは知らないのですが、このボビー・フィッシャーがベス・ハーモンのモデルになっているだろうと考えられています。もちろん、ボビー・フィッシャーは男性ですし、孤児でもありませんでした。しかし、様々な点で共通点があります。
時代
クイーンズギャンビットの冒頭は、成長したベス・ハーモンが世界チャンピオンのボルゴフと対戦する直前のシーンから始まります。この際に舞台が1967年のパリであることが画面に表記されます。1960年代のアメリカ最強のチェスプレイヤーと言えば、間違いなくボビー・フィッシャーです。世界チャンピオンになったのは1972年ですが、1960年代の半ばには既に世界一の実力者と目されていました。
つまり、1960年代のアメリカの強いチェスプレイヤーと言えばフィッシャーというのが一つ目の理由です。
母親(父親)の学歴
第1話の13分ぐらいのシーンで、幼いベス・ハーモンが「単項表現と対象表現」と書かれた書籍を持っています。この書籍には著書が母親のアリス・ハーモンでその名前にPH.Dという記載があり、その下にコーネル大学の数学科とあります。PH.Dとは、博士取得者を指す称号です。この書籍はアリスの博士論文であると思われ、コーネル大学で博士号を授与された数学者であることが分かります。
つまり、ベスの母親はアメリカの一流大学で博士号を取るような優秀な女性であり、娘のベスの頭の良さ(そしてチェスの才能もあるかもということ)が示唆されるシーンになっています。
ボビーフィッシャーの父親は数学者ではありませんが、ドイツ人の生物物理学者です。この点も類似点であると思います。父親が学者である、男性のフィッシャーと、母親が学者である、女性のベスという対比がなされているように思えます。
また、ボビーフィッシャーはシングルマザーである母親に育てられ、ベスはシングルマザーの母親の無理心中により、孤児になりました。家族構成も似ています。
ロシア語を学ぶベス
劇中でベス・ハーモンがロシア語を学ぶシーンがあります。これもフィッシャーとの共通点です。まだネットもなかった当時、世界一のソ連のチェスを学ぶためには情報源がロシア語の雑誌や本しかありませんでした。フィッシャーはロシア語を学び、ソ連のチェスを勉強することでその実力を高めていきました。
劇中で触れられないフィッシャーの名前
クイーンズギャンビットの中ではモーフィー、カパブランカなど実在のチェスプレイヤーの名前が言及されます。また、フィッシャーと世界戦を争ったスパスキーの名前も出てきますが、肝心のフィッシャーの名前が出てきません。不自然だと思います。これはこのドラマの世界の中ではベス・ハーモン=ボビー・フィッシャーという構図になっているので、名前を出すことができないと考えるのが自然でしょう。
まとめ
ベス・ハーモンのモデルはボビー・フィッシャーというのは納得していただけたでしょうか。本編の中でベス・ハーモンは世界チャンピオンのボルゴフに初めて勝利し、一応のハッピーエンドで終えました。しかし、ボビー・フィッシャーは世界チャンピオンになった後にチェス界から姿を消し、決して幸せとは言えない人生を過ごしました。もし続編があればベスの今後はどうなるのか、気になるところではあります。
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