当ブログではチェスのタクティクスにおけるモチーフを網羅的に紹介してきました。しかし、モチーフを知っているだけで十分でしょうか?簡単な1手のタクティクスであれば解けるけれど複雑なタクティクスになるとお手上げ、という方もいるのではないでしょうか。
以前、「タクティクスの問題を解くコツ」という記事を書きましたが、この記事は少し上級者向けで、もっと根本的なところで問題を抱えている初心者・初級者の方がいるだろうと思いました。
本記事では、シンプルなタクティクスから一歩進むために必要となる考え方、「強制手」について解説します。
なぜ2手以上で決まるのか?
まず、シンプルではないタクティクスとはなんでしょう?この記事では1手では決まらないタクティクスと定義したいと思います。2手以上掛けて駒得する、メイトにするようなタクティクスです。
タクティクスに2手以上かかるということは、相手も駒を動かす余裕があるということです。にも関わらずタクティクスが成立するのは、ちょっと不思議な気がしませんか?
実は、タクティクスでは相手に何かを強制する手を指すために、実質的に相手は自由に手を指せない。つまり、守ることができないのです。
そこで、その何かを強制する手を見つけることが、タクティクスを見つける早道になります。
相手に何かを強制する手
では、その何かを強制する手にはどんなものがあるか見ていきましょう。
メイト狙い
もし、メイトを狙うことができる手があれば、それは強制する手になります。メイトを狙われたら、それを防ぐ手しか指せないからです。
ここで注意したいのは、相手をメイトにすることが必ずしも目的ではないということです。単純にメイトを狙うのではなく、「メイト狙いができるという状況」をタクティクスに活かすのです。
「メイトが簡単に防げるから意味ない」、ではなくメイト狙いを別の有利に活かせないか考えましょう。
上図では、Qd4としてQxg7のメイト狙いがあるためにb6のナイトを守ることができません。
チェック(キングを攻撃)
盤上でチェックを掛けることができるかどうかも、タクティクスが生じ得る要因になります。チェックに対しては、別記事でも書いた通り「味方の駒を間に挟む」、「チェックした駒を取る」、「キングが逃げる」の3通りの対処しかありません。つまり相手の対処を強制しているのです。
上図では、Bb5+とすれば黒キングへのチェックと黒クイーンへの攻撃が生じます。クイーンを逃がしたいところですが、チェックなので動かせません。黒はクイーンを失います。黒クイーンがチェックを防ぎつつ逃げることができれば、クイーンを助けることが可能なことは意識しておきましょう。
上図はチェックで1手稼ぐことによってナイトフォークを実現しています。
Ng6+には黒キングを逃がすしか(あるいはQxg6とクイーンを犠牲にするしか)ないですが、キングが逃げた後に白番なので、Ne5のナイトフォークが防げません。
クイーンを攻撃
クイーンを攻撃することも相手の対処を強制します。クイーンはチェスにおいてとても価値の高い駒なので、黙って取られるわけにはいきません。「味方の駒を挟む」、「攻撃してきた駒を取る」、「クイーンが逃げる」という対処を通常することになります。
ここで注意したいのは攻撃されているクイーンを無視して別の手を指すことも可能なことです。
例えばチェックであれば相手に対処を強制するので、クイーンは取れませんし、メイト狙いがあれば相手はメイトを防がなければなりません。
上図ではNd5と相手クイーンを攻撃することによって、相手はクイーンを逃がすしかないので、Nf6+のナイトフォークが止まりません。
守られていない駒を攻撃
相手の守られていない駒(クイーン以外)を攻撃することも相手の対処を強制する効果があります。「味方の駒を挟む」、「攻撃してきた駒を取る」、「攻撃された駒が逃げる」の3つが基本の対処ですが、相手の攻撃を無視することもできます。特に、クイーンよりも価値が低い駒が攻撃されているので、無視できる余裕が大きいです。
以上の「チェック」、「クイーンを攻撃」、「守られていない駒を攻撃」の3つは本質的に同じような概念であることは意識しておきましょう。キングはルール上取られるわけにいかない、クイーンはあまりにも価値が高いので別格なだけです。
また、この守られていない駒を攻撃には「守りが足りていない駒を攻撃」も含んでいます。現時点で1つの駒で攻撃しており、相手が1つの駒で守っている場合、さらに攻撃を加えることで相手に対処を強制できます。
上図のポジションではa6のナイトがクイーンで守られていますが、既に白のビショップでも攻撃を受けています。
Qa5とさらにナイトを攻撃すれば黒ナイトは逃げざるを得ません。
ナイトが逃げることで稼いだ1手で白クイーンは攻撃的な位置に移動します。メイト狙いで、g6と守るしかありませんが、そうするとf6のビショップが取られてしまいます。
駒を取る
守られていない駒と同じではないかと思うかもしれませんが、違います。この項目では、最初の局面で相手の駒を取れる状況であれば、その駒が守られているかどうかは関係ありません(守られていなければ初手で取れますし)。
通常、駒を取られれば、基本的にはその駒を取り返すでしょう。つまり、対処が(ある程度)強制されています。駒を取る手がチェックであればさらに強制力が高まります。チェックではない場合には無視することもできますし、チェックでもその駒を取る以外の選択肢(キングが逃げる、味方も駒を挟む)があることには注意しましょう。
黒のビショップはナイトで守られていますが、そのナイトは白ビショップで攻撃を受けています。
Bxf6と取ってしまえば、黒はビショップを守る手と、白のビショップを取る手を同時には指せないので、駒損になります。
チェスコムのレッスンで学ぶ
チェスコムのレッスンにも強制手にフォーカスしたものが用意されています。少し難しいかもしれませんが、練習にどうぞ。
まとめ
タクティクスにおいて、モチーフももちろん大事なのですが、タクティクスが成立する条件は当たり前ですが「防げない」ということです。防げない状況を作る強制手の存在がタクティクスを見つける上で最も重要になることも多いので、意識するようにしましょう。
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