今回は、初手e4に比べると分かりにくい気がするかもしれないd4について初心者・初級者向けに解説します。
初手d4の特徴
初手d4はe4に比べると穏やかな展開になることが多く、戦いがすぐに始まらない印象ではないでしょうか。定跡次第な部分もありますが、確かに初手d4で始まるゲームはなかなか駒交換すら進まない印象があると思います。d4が持つ特徴とも関連があります。
d4がクイーンに守られている
当たり前と言えば当たり前ですが、d4のポーンはd1にいるクイーンに守られています。ですので、例えばNc6として黒が攻撃してきてもすぐに守る必要がありません。初手e4の場合にはe4のポーンは初期配置ではどの駒にも守られていないので、e4の守りに奔走されることも多いです。
このことが初手d4が比較的穏やかな展開になる理由でしょう。
黒マスビショップが出られる
d4の駒展開に関する意味としては黒マスビショップが動かせるようになることです。e4ではキングサイドの白マスビショップが展開可能になるのに対して、d4ではクイーンサイドの黒マスビショップが展開可能になります。
このため、キングサイドのピースの展開が遅れ、キングサイドキャスリングが遅くなります。一方で、後述する理由により、初手d4ではクイーンサイドキャスリングはしない場合が多いです。
基本的には「戦いはキャスリングをしてから」なので、初手d4では戦いが始まるのが遅くなる傾向にあることも納得ではないでしょうか。
初手d4の一般的な展開
次に、初手d4以降、「普通はこんな感じに進みます」という話をしていきます。
黒はe4を防ぐ
まず、黒は白の次のe4を防ぐ手を指すのが一般的です。具体的には、d5とNf6がメジャーな手で、他にもf5があります。d5やf5のようにポーンでe4を防ぐ方が強力で、Nf6に関しては結果的に白がe4を突くことができる展開になることも多いです。
白はcポーンを突く
白は2手目や3手目にc4を突くことが多いです。この手の意味の具体的な意味合いは難しく、「d5に圧力を掛けるため」と言われることが多いです。確かにこの説明は正しいのですが、私は以下のような説明の方が初心者・初級者に分かりやすいのではないかと思います。
c2のポーンは役立たず?
cポーンがc2にいる場合、そのポーンはc3とb3を守っていますが、あまり役に立っているとは思えません。c4は先ほど述べた通りd5に圧力をかけていますし、c3であればd4のポーンを守っています。
つまり、c2では役割が薄いので、cポーンを突くべきということです。
早いタイミングで突く理由は?
では、2手目や3手目(のような早いタイミング)に突く意味はあるのでしょうか?これはクイーンサイドのナイトと関連があります。ナイトを展開する位置としてc3が中央に近く、最も活動的です。しかし、このNc3をcポーンを突く前に指してしまうと、ナイトが邪魔をしてポーンを突くことができません。このため、d4, c4, Nc3をこの順番に早い手順で指すことが初手d4の定跡では多いのです。
一方で、ポーンをc4ではなくc3に、ナイトをc3ではなくd2に展開する場合にはc3やNbd2を急がなければならない理由がありません。そのような場合には他のピースの展開やキャスリングを急いでいることが、定跡手順を見るとわかるのではないかと思います。
cポーンを突くことによるデメリット
このcポーンを突くことに1手使っているために、白のキングサイドキャスリングはさらに遅れることになります。また、c4と突いてしまうとクイーンサイドが弱まるため、クイーンサイドキャスリングがやりにくくなります。
黒マスビショップの展開
初手d4にとってのもう一つの懸案事項が黒マスビショップの展開です。
e3かe4か
前項で黒は白のe4を防ぎにくるという述べましたが、これが黒マスビショップの展開に非常に重要です。なぜなら、白マスビショップの展開のために白はeポーンを突くことになりますが、e4を突ければ問題ないですが、e3では黒マスビショップが出られなくなっていしまいます。
このため、早い段階でe4がつけるならば黒マスビショップの展開は遅くてよく、無理そうであれば、早めに展開してe3を突きます。
初手d4の定跡
ここまで話してきたことを前提として、初手d4の定跡について細かな話は省いて、大まかな展開の特徴について説明します。
黒の初手d5
まずは黒のd5についてです。d5は「e4突きは許しません」という手で、白がe4を突くためには準備が必要なので、とりあえずe3を突くことになります。このため、前述の通り、黒マスビショップの展開を急ぐことになります。
まずは、白の2手目c4に対して黒がどのように対応するかで、2種類に分かれます。e6がクイーンズギャンビットディクラインド(QGD)で、c6がスラブです。
クイーンズギャンビットディクラインドはこの後Nf6、Be7と展開します。これに対して白の黒マスビショップの展開位置はBg5です。
無事に黒マスビショップを展開できたので、あとはe3を突いてキングサイドを展開、キャスリングすれば問題ありません。
スラブではなかなか黒マスビショップを展開できない
一方で、少し厄介なのがスラブです。スラブの場合にはなかなかe6を突きません。これは、黒の白マスビショップの展開を狙っていると共に、白の黒マスビショップの展開を阻害しています。
というのも黒がe6を突く前にBg5としてもナイトを避けられたり、単にポーンで追い払われたりします。
要するに、スラブにおいては白の黒マスビショップのいい位置に展開できないように待っているようなところがあります。
白としては黒マスビショップの展開を諦めてe3を突いてしまってもいいですし、Nf3、Nc3と黒のe6を待ちます。黒からの戦略としては諦めてe6を突く変化(セミスラブ)とdxc4としてe4を抑えることは諦めるが白マスビショップを展開する変化(クラシカルスラブ)に分かれます。
このようにスラブの手順の方が白のやりたいことができずわかりにくいかもしれませんが、初心者・初級者のうちは黒マスビショップの展開を一時的に諦めてキャスリングを急いでしまって構わないと思います。
黒の初手Nf6
次にNf6です。Nf6はe4を防ごうとする手ですが、d5ほどの強制力がありません。Nc3からe4と突くことも可能だからです。このため、白がe4を突ける展開になることが多いです。
Nf6でもe4防ぐ
黒の初手Nf6の定跡をインディアン定跡と呼びますが、インディアン定跡のうち、e4を敢然と防ぎにくるのがニムゾインディアンディフェンスです。この定跡ではBb4としてe4をサポートするナイトをピンにする(そして問題があればc3のナイトを取ってしまう)ことで白にe4を許しません。
白の応手としては、Qc2とe3がメインラインです。e3は黒マスビショップの出口を塞いでしまいますが、e4を突くのが難しい以上、まずはおとなしくキャスリングしてからビショップの展開をどうするか考えるのがこの定跡への対応方法として無難です。黒もb4のビショップをどうするのか(ナイトを取ってツービショップを失うor退いて1手損する)考えなければならないので、このような対応で問題ありません。
e4がつける場合
多くのインディアン定跡において白はNc3からe4と突くことができます。突けるならば突いてしまいましょう。e4を突けば黒マスビショップの展開を急ぐ必要がないので、キャスリング後に考えます。
黒は基本的にキングサイドのフィアンケットをしてくるはずです。
白にセンターのポーンを突かれており、中央付近にスペースが少ないため、ビショップ一つをサイドに展開することは非常に合理的です。
また、黒はセンターポーンをついて反撃してきます。
c5またはe5をついてくることが多いです。白は基本的にd5と突き越します。
ここで大事なことは、黒はポーンを突いた方向から攻めてくるということです。c5ならばクイーンサイド側なので、クイーンサイドを攻めてきます。e5ならばキングサイドから攻めてきます。ポーンは攻めの尖兵の役割をするので、このような展開になります。
この際に、白はその逆側のサイドを攻めるのが基本です。相手がe5をついてきたら、黒のクイーンサイドを攻める。c5を突いてきたらキングサイドを攻めます。黒マスビショップはこの白の攻めのプランに沿った位置に展開します。
このように書くと黒に主導権を握られており、不満に思うかもしれません。
しかし、簡単にe4を突いてスペースを取れることは白にかなりのアドバンテージがあります。黒から早い段階での反撃がなければ勝負にならないと考えることもできます。
動画での解説
本記事の内容を動画でもまとめています。そちらも参照してみてください。
まとめ
今回は初手d4の白番についてざっくりと3パターンに分けて解説しました(f5のダッチは無視しました)。初心者・初級者のうちは、この記事で書いたようなことを意識して指すだけでひとまず良いのではないかと思います。「対処にいつも困る」という形が出てきたらきちんと定跡を調べてみるといいでしょう。Chess.comやlichessのアプリでも調べることができます。
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