5回目となったチェスコラム、今回はシシリアンディフェンスにおける手順について少し考えてみました。
2. Nf3 or 2.Nc3
現代のシシリアンにおいて、白の2手目はNf3またはNc3が中心だと私は考えています。そのことについて本記事では少し考察してみたいと思います。
どちらもオープンに移行可能
一番のポイントは、2手目Nf3はもちろん、2手目Nc3もオープンシシリアンに移行することが可能な点です。3. Nf3、4. d4を止める手段はあまり多くありませんし、この手順のために黒が新たな変化を覚えることも少ないと思います。
つまり、どちらの手を選んだとしても黒としては自分が指すつもりのオープンシシリアンに戻れるような手順を指す必要があります。
サイドラインへの移行
オープンシシリアンに移行可能であることと表裏の関係ですが、白はサイドラインに移行することも可能です。現在、シシリアンと言えばオープンシシリアン、ロッソリーモ/モスクワ、アラピンだと思いますが、2手目Nf3であれば黒の2手目を見た後に上記三つのどの変化にも戻ることができます。
この点で言えば2手目Nc3の方が柔軟性が乏しいと言えます。アラピンは選択肢から消えますし、ロッソリーモについても変化が限定されそうです。一方で、Nf3を指す前にf4を突くという、グランプリアタックを指せる可能性があります。上手くいくと1手得のロッソリーモになります。ChessMoodのオープニングレパートリーで採用されています。
白から見たメリット
以上のような手順に関する考察は白にとってとてもメリットが大きいことが分かります。
大前提として、シシリアンの主役はオープンシシリアンです。しかし、オープンシシリアンはナイドルフやドラゴンだけでなく数多くの変化があり、そのすべてに対応することは非常に難しいです。しかし、黒の2手目を見ることでその変化を限定することができます。
例えば、黒が2手目にd6と指してきた時のみオープンシシリアンにするというような対応も可能なわけです。基本はアラピンまたはロッソリーモを指し、徐々に主役のオープンシシリアンにチャレンジするというアプローチが可能になります。このアイデアは2手目Nc3でも適用可能でしょう。
黒のジレンマ
一方で、黒にとっては非常に悩ましい問題です。大した問題ではないと思う人もいるかもしれませんが、きっちりオープニングレパートリーを構築し始めるといろいろと問題が出てきます。
例えば、白2手目Nc3に対して、ナイドルフプレイヤーはd6と応じざるを得ません。Nc6などとしてしまうと、オープンシシリアンに移行された際にナイドルフにならないのです。黒の2手目d6に対してはグランプリアタックが有効であると考えられています。d5と突き返す反撃が手損になるからです。
また、ナイドルフプレイヤーにとっては2手目Nf3、3手目c3の手順も煩わしいです。この手順では黒は2手目d6と突いているので、アラピンに対するメインラインの一つであるd5が指せません。
以上は、ナイドルフプレイヤーとしての私の経験に基づいた一例ですが、他の変化でも色々と問題があるはずです。なんだかいつも指しづらい、という手順があったら、そのような状況にはまっていないか確認してみるといいと思います。
まとめ
今回のコラムでは、ちょっとマニアックな定跡手順の問題を扱いました。シシリアンに限らず、様々な定跡で、手順を工夫することで自分が嫌な変化を避けたりといったことがチェスではよく行われています。
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