前回に続いて、チェスの基本シリーズ、序盤の基本の第2回目です。今回はピースの展開の重要性について見ていきます。
前回の復習
まずは前回のおさらいです。このシリーズでは”The Ideas Behind Chess Openings”を参考にオープニングの原則について考えています。本書の中で、著者のFineはチェスのオープニングにはnormal(普通)な手とabnormal(普通じゃない)な手があり、その基準として以下の2点を挙げています。
1 その手が盤の中央(センター)に影響を与えるか
2 他のピース(駒)やポーンの展開に即した手であるか
つまり、センターと駒の展開が重要だということです。前回はセンターの重要性と意味について扱いましたので、今回は駒の展開について考えていきましょう。
展開(Development)
初期配置
駒の展開を考える上で、まずは初期配置を見てみましょう。
初期配置を見て明確にわかることは、このポジションではポーンとナイトしか動かすことができないということです。逆に言うと、ビショップなどの他のピースを展開するためにはポーンを突かなければいけないということです。
前回、ポーンを突いてセンターを支配するという話をしましたが、実際には駒の展開にもポーンを突くことは必須であり、複合的な役割をしていたわけです。
ポーンと展開
ポーンを突いて駒を展開する場合、まずはビショップを出す準備をしようという話になると思います。ナイトはすでに出れますし、クイーンはすぐには出さないことが多いですからね。
そうすると、実は選択肢が少ないことに気が付くはずです。下図を見てみましょう。
上図では、白がd4, e4、黒がb6, g6をを突くことでそれぞれのビショップを動かせるようにしています。このようにビショップを展開するためには、b, d, e, gのいずれかのポーンを突く必要があります。他の列のポーンを動かしてもビショップは動けません。
ここで重要なのはd4やe4は前回のセンターの支配のところでも出てきたポーンの動きであることです。
つまり、b6やg6を突く手(白番ならばb3やg3ですね)がビショップを展開するという役割しかしないのに対して、d4やe4はセンターの支配にも効く一石二鳥の手なんです。
このことから、初手e4とd4がメインであることの理由がわかるのではないかと思います。
また、b3, g3, b6, g6などを突いて、ビショップをそれぞれb2, g2, b2, g2に展開する形のことをチェスではフィアンケットと呼びます。この位置に展開したビショップはa1からh8、h1からa8というチェス盤上で最も長い斜めのライン(ダイアゴナルと呼びます)に位置するために、強力な影響力を持つ可能性があります。一方で、フィアンケットを組むために必要なポーンの動きは前述のとおり、センターへの影響力がありませんので、序盤の手としては遅い(一石二鳥ではない分)と考えられています。
フィアンケットは将棋で言う「囲い」にあたる唯一の用語ではないかと思います。ま、だからどうだというわけではないんですが。
1歩突くか2歩つくか
同じdやeポーンでも1歩突くか2歩突くかで大きく状況が異なることも意識する必要があります。d4, e4と突いた場合にはビショップを様々な位置に展開が可能です。一方で、1歩しかつかない(d3, e3, d6, e6など)場合には片方のビショップの展開には支障ないですが、もう片方のビショップはポーンが邪魔して1か所しか展開できる場所がありません。そのことを端的に表したのが下の図です。
白のビショップが様々なマスに展開可能なのに対して、黒のビショップは1か所にしか展開できません。これは極端な場合ですが、黒の定跡ではe5、d5両方を突けることは稀ですので、黒番ではどちらかのビショップは使いにくい状況にあるんだということは理解しておくといいと思います。
駒の展開とキャスリングの意義
さて、ここまで明示してきませんでしたが、駒を展開する目的は二つあります。
ひとつは、
それぞれのピースをより効果的な位置に配置すること
ポーンを突くことによって、ビショップは外に出られるようになりましたが、そのままでは相手陣地には一切影響力がありません。例えば、白の白マスビショップb5, c4, d3に配置した際に黒の陣地方向にどのように効いているかを示した図が下図になります。元のf1の位置では影響力を与えられなかった黒陣地に向けて効いていることがわかると思います。
ただし、じゃあe2の地点はダメなのかというとそんなことはないです。この話はあくまで一般論。オープニングの理解を助ける役割をしても、そのすべてではないことには気を付けて。
そして、もう一つ重要な理由は、
キャスリングをする
キャスリングをするためには、キングとルークの間の駒をすべてどけなければなりませんので、駒の展開が必須です。キャスリングは、キングを安全な場所に避難させるだけでなく、強力な駒であるルークを端っこから引っ張り出す、非常に便利な手段です(これも一石二鳥ですね)。
このキャスリングを行使するためにも駒の展開は序盤において非常に重要になります。
まとめ
- センターの支配だけでなく、展開にもポーン突きが必須
- dやeポーンは一石二鳥だからメインの定跡
- 駒の展開の目的はピースの配置の改善とキャスリング
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