Opening impressionsはチェスの様々なオープニング(序盤定跡)について私の私見を含めて、簡単に網羅解説していこうというシリーズです。今回はトリッキーなアレキンディフェンスの紹介です。
アレキンディフェンス
Alekhine’s Defence
1. e4 Nf6
アレキンディフェンス は第4代世界チャンピオンのAlexander Alekhineの名前から名付けられたオープニングで、ピースを使ってセンターに影響力を行使する、いわゆるハイパーモダンと呼ばれるオープニングの一つです。
なんだか難しそうですが、コンセプトはいたって簡単で、「初手からe4を攻撃しますよ」というものです。当然、白は何らかの対処を求められますが、e5と突いてf6のナイトを攻撃するのが最も有力です。黒はナイトをd5に避けるのがメインラインですが、そのナイトの位置もc4とポーンで攻撃を受けます。
このナイトを追い払うために突いたポーンが手得になるのか、弱点になるのかがこの定跡のポイントです。
キングサイドが手薄
もう一つポイントになるのが、黒のナイトがキングサイドから離れることによって、(キングサイドキャスリングをした際の)キングの守りが手薄になることです。一般的にキャスリングしたキングの守りの要はナイトです。このナイトがいないことでキングの安全性が低下しています。
白のポーンを狙う
2. e5 Nf6
3. d4 d6
前述の通り、黒の狙いは白の突き過ぎたポーンです。d6とすぐにe5のポーンを崩しにいきます。白に落ち着いてピース展開とキャスリングを終わられては黒不利になるので、素早いカウンターが求められます。
白の準備は(たぶん)薄い
アレキンディフェンスはあまりメジャーな定跡ではありません。Lichessのデータベースを見る限り、スカンジナビアンやピルツといったマイナー(?)定跡よりも指されていません。このため、白の対策もあまりできていないことが予想されます。
通常このように指されることが少ない定跡に対する準備は薄くなりがちですし、初手から白黒非対称な駒組になるので、黒で勝ちを狙いにいくには面白い変化ではないかと思います。
アレキンディフェンスの定跡手順
では具体的な定跡手順について見ていきましょう。
フォーポーンアタック
Four pawn attack
4. c4 Nb6
5. f4
アレキンディフェンスの最も典型的な形だと思われるのがフォー(4つの)ポーンアタックです。白はポーンで2回テンポを取っており、かなり手得したうえで4つの中央のポーンを配置しています。白が良いはずだ、と思える局面ですが、少なくとも白はピースを一つも展開しておらず、黒はナイトを展開していて、現在黒番です。
このピース展開の遅さよりも中央のポーンの方が価値が高いということを白は証明しなければなりません。当然、黒は逆を主張することになります。
黒が正確に応手すれば白がセンターを維持することはかなり難しいです。
例えば、上記のポジション、黒がd4を狙っているので、Nf3と守るのが自然に見えますが、Bg4, Be3, e6となり
Qh4の狙いもあって、既にd4のポーンを通常の手段では守り切れません。
上記のポジションでの正着はBe3とポーンを守ることで、Bg4を許しません。
このように一見強力に見えるセンターポーンを守ることは簡単ではなく、非常にシャープな変化になります。
エクスチェンジバリエーション
Exchange Variation
4. c4 Nb6
5. exd6
e5への攻撃が煩わしいので交換してしまおうというエクスチェンジバリエーションです。白はc4とd4にならんだポーンを主張点にします。また、黒のポーン構造は、cポーンで取り返してもeポーンで取り返してもその後のポーンブレイクがやりづらい形になることも白の優位点でしょう。
一方で、eポーンがない分d4のポーンが白の弱点になりがちなので、黒はg6からフィアンケットしてd4を狙うプランが考えられます。e5のポーンを交換しているので、このようにフィアンケットビショップが効いてくるわけです。
モダンバリエーション
Modern Variation
3. Nf3
ひとまずc4を保留してナイトでe5を守るのがモダンバリエーションです。ChessMoodのレパートリーでも採用されており、有力だと思います。
白の狙いは、dxe5に対してNxe5とナイトで取り返すことと、c4を温存することによって、相手の出方を見てc4を突くかどうか決める柔軟な対応をすることです。この意味で、スカンジナビアンディフェンスの3. Nf3の変化に似ている気がします。
チェスコムで学ぶ
チェスコムの教育コンテンツである「レッスン」でもアレキンディフェンスを学ぶことができます。
まとめ
今回のOpening impressionsはアレキンディフェンスを扱いました。個人的にはこのアレキンディフェンスやスカンジナビアンディフェンスが成立するようであれば初手e4は指せないのではないかとおもっています。
とはいえ、初手から白黒非対称になる点や、黒の手としてかなりマイナー(な割にはおかしな定跡ではない)ことから、黒で勝ちに行く定跡としては有力なのではないかと思います。
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