Opening impressionsはチェスの様々なオープニング(序盤定跡)について私の私見を含めて、簡単に網羅解説していこうというシリーズです。
スカンジナビアンディフェンス
Scandinavian Defense
1. e4 d5
白の初手e4に対してd5と即e4にプレッシャーをかけるのがスカンジナビアンディフェンスです。センターカウンターディフェンスとも呼ばれますが、古い本での記述という印象で、スカンジナビアンディフェンスという名称がよく使われます。
黒の初手Nf6のアレキンディフェンスも同じような発想ですが、スカンジナビアンの方が白にe4を維持する選択肢がありません。e4を守ってもdxe4と取られるだけですから。基本的に白はexd5と取ることになると思います。Qxd5に対してNc3とすることでクイーンを攻撃してテンポが取れるからです。
黒の問題点
スカンジナビアンディフェンスは白にとって嫌な定跡ではありますが、明確な問題点も抱えています。
クイーンでテンポを取られる
前述のとおり、黒はNc3とでテンポを取られてしまいます。Nc3は明確に駒の展開になっており、黒のクイーンは逃げなければなりませんから、損をしていることが分かるでしょう。
また、黒クイーンはQa5やQd6と逃げる手がメインですが、このクイーンの位置も相手に狙われることがあり、さらにテンポを取られてしまうこともあります。
センターでの争いに弱い
もう一つの黒の問題点はセンターの支配力が白に劣ってしまう点です。白は簡単にd4を突くことができますが、黒がe5を突くのは容易ではありません。このため、センター付近へのピースの配置がやりにくく、パッシブな駒配置になりがちです。
黒の主張点
白の選択肢は少ない
初手でポーン交換をなかば強制されてしまうことで、白の選択肢がかなり狭まっています。このことからスカンジナビアンディフェンスは比較的覚えることが少ない定跡であると考えられており、アマチュアレベルでの愛好者も多いです。
ピースの展開がしやすい
もう一つの利点が、ピースの展開がしやすいことです。特に、白マスビショップをスムーズに展開できることが大きいです。e4のポーンを交換したことでf5のマスが確実に使えます。もちろんg4に行く選択肢もあります。このあたり、カロカンディフェンスとの類似で考えると分かりやすいかもしれません。
白の難しさ
私は厳密に考えればスカンジナビアンディフェンスは白良しだと思いますが、特にアマチュアレベルでは対応が難しい定跡だと思います。主な理由は二つあると思っています。
メジャーな定跡ではないこと
一つ目はスカンジナビアンディフェンスがメジャーな定跡ではないことです。アマチュアレベルでは珍しくないとはいえ、10試合で1試合あるかないかの遭遇率だと思います。このため、対策を立てるのが遅くなりがちになるでしょう。
白の優位点の活かし方が難しい
白の優位点というか黒の前述の黒の問題点を咎めるということです。黒からもらった1テンポをどう活かすか、センターでの支配力をどう活かすか、どちらも素人にとっては簡単なことではありません。つまり、通常の白の優位点(スペースアドバンテージやピースが展開しやすいなど)に比べて高度なテクニックが必要な優位点なので難しい印象があります。
スカンジナビアンディフェンスの定跡変化
次にスカンジナビアンディフェンスの具体的な変化についてみていきます。まずはQxd5に対するNc3にどうクイーンをどう避けるかが大きな分岐でしょう。Qa5とQd6が有名ですが、Qd8もあります。また、白がNc3をせずに3. Nf3として黒の出方を見る変化もあります。
クイーンでテンポを取られないようにする工夫として、2手目にNf6としてナイトでポーンを取り返しにいくアイデアも知られています。
3… Qa5
1. e4 d5 2. exd5 Qxd5 3. Nc3 Qa5 4. d4 Nf6 5. Bc4 c6 6. Nf3 Bf5 7. Bd2
手順は入れ替え可能な部分もありますが、おおむね上記のような駒組になるかと思います。
白のナイトとc4のビショップはとても自然な位置取りに展開されていますし、黒についてもこの後Nbd7、Be7とすれば自然に展開できます。前述の黒の駒が展開しやすいという特徴のとおりです。
一方で、d2に配置された白の黒マスビショップが特徴的です。狙いは当然ナイトをどかしてのクイーンへのディカバードアタックです。クイーンの逃げた位置を活かしています。
黒は次の手でクイーンを逃がしてしまってもいいですが、e6と展開を急いでディスカバードアタックをされてからクイーンを逃げる方が一般的です。黒はこの後駒展開を終えてロングキャスリングをして戦います。
3… Qd6
3… Qd6は一見非常に不可解な手です。d6の位置はNb5、Nc4、Bf4などで簡単に狙うことができ、いずれかの手でクイーンをもう一度追い払われることが多いです。しかし、近年比較的メジャーになってきている手でもあります。
白はやはりこの黒クイーンの位置を利用することになりますが、Nb5でクイーンを狙うことは効果的ではありません。確かに黒クイーンを追い払えますが、b5のナイト自体もポーンなどで追い払われることになるので、白は得をしません。
白のメインの変化はNe5とf3のマスをクイーンに明け渡してBf4を狙うか、g3と突いてフィアンケットを組むと共にBf4を狙うかです。Ne5の場合には黒のBg4を防ぐとともにNc4(これも相手クイーンを狙う手)も見ています。
あえてNc3を遅らせる
2. exd5 Qxd5 3. Nf3
Nc3とせずにNf3として黒の出方を見る変化です。黒の応手によって最適な駒組を決めようというのが白の意図です。Nc3の他にもc4とポーンの手で黒クイーンを追い払うことも狙っています。
2… Nf6
d5のポーンをクイーンではなくナイトで取り返そうという意図です。ナイトで取り返すのであれば、クイーンが追い払われることはありませんが、d5のナイトもc4などで追い払われてテンポを取られます。また、3. Bb5+として白が1ポーンアップを維持するのも有力な変化です。
チェスコムで学ぶ
チェスコムのレッスンでスカンジナビアンについて学ぶこともできます。
まとめ
おそらく、初手e4プレイヤーにとって黒に指されたくない定跡ランキング上位に入るであろうスカンジナビアンディフェンスの紹介をしました。
白としては「1手得ができること」、「黒に比べてセンターの支配力に優れること」を活かして優位を保ちたいところです。面倒くさいがそこまで厄介な定跡ではないと思います。
黒の立場としては、パッシブではあるもののピースの展開などは容易なので、白に隙を見せないように気を付けつつ、耐えながら相手のミスを待つというスタンスなのではないかと思います。
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