2005年の暑い夏の日のことでした。日本で唯一の賞金トーナメントの最終ラウンド、私は日本一強い高校生と対峙することになります。
前日までは蒲田のPIOが会場でしたが、会場が取れなかったのか最終日は池上のチェスセンター、窓際の席であったため暑さに悩まされたゲームであったことを覚えています。
白: Kojima, Shinya (2127)
黒: Sakai, Enju (1567)
Japan League (7) (2005)
1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6

みんな大好きシシリアン・ナイドルフバリエーションです。白の小島君は、もちろん今も定跡に精通していますが、当時は特に定跡研究に力を入れている印象があり、どのような変化を指してくるのかは私も興味がありました。
6. f3 e5 7. Nb3 Be6 8. Be3

白がf3の手順から入りましたが、いわゆるEnglish Attackの形です。白はクイーンサイドにキャスリングし、g4から黒キングに迫るプランです。また、g5からf6のナイトを追い払い、d5のアウトポストを強固にする狙いもあります。当時は非常にポピュラーな変化で、黒としては準備が欠かせません。
私は当時”easy guide to the najdorf“のレパートリーに沿ってナイドルフを指しており、English Attackに対してはb5を急ぐかわりにキャスリングが遅れる少し珍しい変化を指していました。
8… Nbd7 9. Qd2 b5 10. O-O-O Nb6

Nb6はEnglish Attackでは割とよく見る形で、d5のマスを抑えることで白がg4, g5としてf6のナイトを追い払った後にもd5の守りを維持する狙いがあります。また、c4に入って白マスビショップと交換しつつbファイルを開く狙いもあります。白がg4を突いていないため、本局では後者が実現します。
11. Qf2

白のd2のクイーンをdファイルからどかす手筋もEnglish Attackでは見かけるアイデアです。d6のポーンをピンにすることで、この後の白の手のような狙いが生じます。私は当時このようなアイデアを知らず、白の13手目に驚いてしまいました。
11… Nc4 12. Bxc4 bxc4 13. Nc5

ここで初めて白のQf2の狙いに気が付きます。白はNxe6に加えて、Na4からNb6に入り、さらにd5に入る手も見ています。さすがにどれぐらいの時間を使ったかはもう覚えていませんが、ここで長考したはずです。クイーンを動かしてピンを外す手が自然で、Qc7がすぐに思い浮かぶ手ですが、私が選んだのは、、、
13… Qc8
e6の地点の守るQc8でした。Nxe6 fxe6の後にポーンを守った状態にしておきたかったのだと思います。
14. N5a4 Qc6
小島君はe6のビショップは取らずにd5のアウトポストを抑える狙いです。黒はNb6のフォークにも対処が必要です。
15. Nb6 Rb8 16. h4

なるほど、と思わされた展開です。b6のナイトはe3のビショップとQf2にしっかりと守られているので、すぐにd5を占拠せずにbファイルを塞いで黒の反撃を防ぎながら、キングサイドから攻める狙いです。しかし、このあたり私にも構想がありました。
16… Be7 17. h5 Bd8!

b6のナイトを攻撃して白に選択を迫ります。このナイトがbファイルからどけば、白キングへのカウンターのチャンスが生じます。ビショップを引く手に好手が多いのが私のチェスの一つの特徴な気がしています。このビショップは単にナイトを攻撃するだけでなく、Bc7でd6を守ったり、Ba5から白キングを攻撃する狙いがあります。
18. Ncd5 Bxd5

白はb6のナイトを逃げずに守ってきましたが、当然黒は守りの駒を取ることで、さらにどかしにかかります。
19. Nxd5 Ba5?

黒は狙い通りビショップをクイーンサイドに展開し、c3を狙っています。しかし、この手がブランダーでした。Rxb2からc3がメイト狙いになっており、守りを入れなければならないように見えますが、20… Rxb2 21. Kxb2 Qb5+ 22. Kc1 c3にはRd3とキングの逃げ道を作って問題ありません。
ここで白にh6と突かれれば、f6のナイトへの狙い、hxg7の狙いなどがあり、崩壊します。黒からのh6やNxd5であればやや白よしの局面で進むはずでした。しかし、、、、
20. c3 ?

この手で一気に黒に形成が傾くのですからチェスは難しいです。b2を横から守れるようにしており、c3のポーン突きを防いでいます。守りの手としては自然ですが、主導権を黒に渡してしまいます。
20… Qa4!

悲しいことに白はa2のポーンを守ることができません。Kb1にはナイトを清算してからのBxc3があります。
21. Nxf6+ gxf6 22. Qc2 Qxa2 23. Rxd6 Qa1+?

ここで黒にも見落としがあり、局面を怪しくします。Bxc3 Qxc3を先に挟んでおけばh1のルークを取れました。正直なところ次のQb1で挟めることを失念していました。
24. Qb1 Qa4 25. Bd2 Ke7?

自然だと思ったこの手が間違いでした。正着はRb3からのキャスリング。先にキャスリングでもダメとのことで、とても難しいです。
26. Rd5?
Rxa6が最後のチャンスでしたが、この手の白にも狙いがありました。最後の1手を見逃していたそうです。黒はh8のルークも攻撃に参加し、攻めが決定的です。
26… Rb3 27. Rd1 Rhb8 28. h6

この手が白の狙いでした。黒キングの逃げ場を塞いだうえで、クイーンを捨ててツールークでの反撃を見ています。ちなみにBh6ではRxc3+で簡単に黒勝ちになります。しかし、最後の1手がありました、、、
28… Rxb2 29. Qxb2 Rxb2 30. Kxb2 Qxd1

最後にd1のルークが落ちてしまいました。キングがc1にいれば守れていた駒なので見落としたのでしょう。白、ここで投了。
0-1
そういうわけで、ジャパンリーグ2005の最終ラウンドで時の全日本チャンピオンに勝ち、3位入賞という結果を得ました。この結果は私に頑張れば強くなれるという自信を与えてくれました。これをきっかけにして順調にレート2000を突破、、、するようなことは全然なく、またしばらく伸び悩むのでした、、、
エピローグ
なお、この試合の後7年に渡って二人の間に対戦がなく、「小島慎也に7年間負けなし」を名乗り続けた挙句、7年後の対戦で引き分けるというネタを提供したのですが、それはまた別のお話。



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