ミハイル・タリは第8代の世界チャンピオン。サクリファイスを交えた直接的な棋風でファンを魅了した。
このゲームはTalと素人(?)との多面指しのゲームです。 多面指しには観客として2種類の見方があると思います。一つには強いチャンピオンがその強さを見せ付けるのを見る楽しみ。もう一つは多面指しとはいえ素人がチャンピオンを破るのを見る楽しみ。そういう意味で、このゲームはその両方を含んだすばらしい内容です。観客は興奮と驚きに包まれた。
このゲームが行われたのは1988年。既にタリ晩年のことです。観客にとっては生ける伝説であっただろうと想像されます。その期待を裏切らないタリ、役者です。
Mikhail Tal – Jack Miller
Simul Anaheim 1988
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6
two knights defenceです。なんの工夫もないネーミングですが、黒がナイト二つを展開しているのでこの名前です。
4.d4 d6 5.dxe5 Nxe4
白のd4はMaxlangeattackと呼ばれる変化ですが、ポーンを取った黒のこの手がいきなりのミス。。
6.Bxf7+
典型的なBxf7でいきなりポーンを失います。なんだか一方的な展開の雰囲気ですが。
6… Kxf7 7.Qd5+ Be6 8.Qxe4
まずは軽くジャブ、観客満足。これで1ポーンアップ。ここからしばらくおとなしい手順が続きます。
そのあたりはとばして…
8… Be7 9.O-O d5 10.Qd3 Qd7 11.Re1 Raf8 12.Nc3 Ke8 13.Ng5
このあたりからまた激しくなってくる。黒は1ポーンを失ったとはいえ、比較的固いポジション。白はまだ黒マスビショップが展開していません。おとなしく展開していれば白がよさそうですが、Talはナイトを敵陣に突っ込んできました。
13.Bc5
黒は白のf2に反撃してきました。Be3にはd4のポーンフォークがありますし、やや受けづらい。
14.Nxe6!
白はf2をチェックで取られるわけですが、無視してきました。
14… Bxf2+ 15.Kh1 Bxe1 16.Nxf8 Rxf8
白黒お互いにルークを取りました。f2のポーンを取ったことで黒はポーンを取り返しており、駒割はイコールです。一方で、白のキングはやや危ない形で、バックランクに問題を抱えています。現状はクイーンがf1を守っているので大丈夫ですが、、、
17.Bg5 Nb4
黒はそのクイーンを狙ってきました。
18.Qe2 Nxc2
メイトがあるのでこのナイトは取れない。これでひとまず黒の駒得。白はどうするか?
19.e6 Qd6 20.Nb5
黒と同じく相手クイーンをナイトで狙う手ですが、、、
20… Qe5
ガツン!Rf1#があるので、当然これも取れない。先程の手といい、この手といい、まるでタリのお株を奪うようなタクティクス。なんだかやられっぱなしのように思える。というよりもこれ、どうするんだ?g5のビショップも当たっている。
タリが負ける?観客もそう思ったことだろう。
21.h4!
いや、違った。全てはタリの手中にある。この手でバックランクメイトは消え、g5のビショップも守られた。Nxc7#があるのでクイーンは取れない。逆に黒のクイーンが取られそうだ。
21… Qg3 22.Rd1 Rf2
この手で白のキングに迫っているようにも見えるが幻想だ。
23.Qxf2
最後のサプライズ。白の攻撃はクイーンがいなくても十分に決定的である。
23… Bxf2 24.Rxd5
黒にはチェックをかける手段すら少ない。
24… Qxh4+
次のRd8#を防ぐにはこれしかない。
25.Bxh4
嵐がやむと、そこに現れたのは高き超えがたき断崖だった。歴然たる駒損。忘れていた、我々の前にいるのはあの「タリ」なのだ、と、観客が思ったかどうかは知らないが…
25… Bxh4 26.Nxc7+ Kf8 27.Rf5+Bf6 28.Rd5 a5 29.Rd7 Nb4 30.Rf7+ Kg8 31.Rxf6 Nc6 32.Rf7 g6 33.e7
ナイトでパスポーンを取ってしまうほかなく、ルーク+ピースダウン。ここで黒投了。
1-0
さて、いかがだったでしょうか。同時対局でこれを指すのか。場を盛り上げるためにわざと危険なラインに飛び込んでないかとか色々考えてしまいますが、Talらしい楽しいゲームだったのではないでしょうか。
Talのゲームがさらに見たいという方は、有名なTalの自戦記だけでなく、比較的新しい棋譜集も出ていますので、そちらも読んでみてはいかがでしょうか。
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