チェスを嗜む人であればだれでも知っている(はずの)有名棋譜の解説をするシリーズの第2弾です。今回もアンデルセンの有名棋譜です。
Immortalに続いてアンデルセンの棋譜の紹介です。今回紹介するのはEvergreen、日本語訳では常緑と訳されますが、「色褪せないゲーム」という意味合いです。
Adolf Anderssen – Jean Dufresne, Berlin, 1852
1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Bc5 4. b4
Evans Gambitです。19世紀にはよく指されていた定跡で、多くの激しい名局を作り出しました。白はbポーンを犠牲にする代わりに、c3からテンポを稼ぎ、センターを形成します。
テンポを稼ぐ、取るという言い方は、自分の展開の手と同時に相手の駒を攻撃することで、相手は逃げる手を指さざるを得ず、また自分の手番になることを呼びます。
4… Bxb4 5. c3 Ba5 6. d4 exd4 7. O-O
白はキャスリングしましたが、見慣れない人にとっては白の優位点がどこなのかわかりにくいかもしれません。ポイントは展開の早さ以上に、この後の黒の展開を阻害している点です。白にはQb3からf7を狙う狙い、Ba3から黒のショートキャスリングを防ぐ狙い、黒がNf6やQf6を指してきた時にe5と突く狙いなどがあり、煩わしいです。他のギャンビット定跡と同じく、間違えると一瞬でつぶされます。
7…d3 8. Qb3
黒はd3として白の展開を遅らせる手を選択しましたが、白はQxd3とは取らず、展開を優先しました。それでもc3にポーンが残っているために(ポーンを動かさない限り)白はNc3と指すことができません。地味な話ですが、このあたりもd3の狙いです。
8… Qf6 9. e5 Qg6
黒はQf6とf7を守りましたが、e5でまたテンポを取られてしまいました。どうせテンポを取られるのであればQe7と守る方がよいのではないかと思う人も多いかもしれません。しかし、Qe7と守るということはg8のナイトをf6に展開するということで、それはそれでe5からの攻撃に対して不安定です。Qf6であればNge7とe7に展開することも可能で、Ba3のa3-f8の斜線を防ぐ役割をします。
10. Re1 Nge7 11. Ba3 b5?!
Immortalでも出てきたポーンの突き捨てです。この時代の人は好きなんでしょうねぇ。
12. Qxb5 Rb8 13. Qa4 Bb6 14. Nbd2 Bb7
私などからすると、黒はなぜキャスリングをしないのだろうかと思ってしまうのですが、冷静に局面を見てみると、b7とb6のビショップが白のキングサイドを狙っており、十分に攻めのチャンスありと考えて指していたのかもしれません。一方で、白のa3とc4のビショップも黒のキングサイドを狙っており、今更キャスリングをするのも危ないという考えだったのかもしれません。
15. Ne4 Qf5?
しかし、ここで明確に疑問手が出ます。Qf5は白のe5のポーンを狙っていますが、きな臭い匂いのする本局面にそぐわない手に見えます。
とはいえ、黒がどのように攻撃を紡いでいくのか見えにくいのも確かでした。b7のビショップはc6のナイトに塞がれているので、Nxe5でどかしたいという気持ちもわかりますし、g5, g4などの狙いでルークを活性化することも狙っていたのではないでしょうか?
16. Bxd3 Qh5
次にディスカバードチェックがあるので避けざるを得ません。
17. Nf6+ gxf6 18. exf6 Rg8
クイーンは避けましたが、Nf6+の狙いは強烈で、白は黒のキングに襲い掛かっています。一方で、白がgファイルを開いてくれたために、今まで全く働いていなかった黒のルークも反撃に働き始めました。この時代の人ならば、というより我々レベルであればまだまだ形勢不明と思いながら指すのではないでしょうか?少なくとも黒にはQxf3の狙いがあります。
このような緊迫した局面でアンデルセンが指した次の1手を考えてみてください。
19. Rad1 !!
アンデルセンは静かに最後の攻め駒を加えました。Immortalにおける19. e5!を彷彿とさせる嵐の中の静かな1手です。奇しくも同じ19手目です。このような1手があるからこその名局、と私は思います。
Qxf3ももちろんですが、19… Rxg2+ 20. Kxg2 Ne5などのより強制的な手順も読み切らなければなりません(この手順にはQxd7 Kxd7からBg6+で白勝です)。しかし、実はこの局面において黒のディフェンスの手が見出されています。白負けではありませんが、黒はイコールに持ち込めます。最後にご紹介するので、この後の展開を見ながら考えてみてください。
19... Qxf3?
もちろん、黒はこうなったら取るのでしょうが、白の攻めが決まります。
20. Rxe7+ Nxe7 21. Qxd7+
このような相手キングにダブルチェックを掛けるためのサクリファイスは古典の名局では頻出する印象です。
21… Kxd7 22. Bf5+
ダブルチェックで、あとはメイトに1直線です。
Ke8 23. Bd7+ Kf8 24. Bxe7#
1-0
さて、黒の19手目のディフェンスの手はわかったでしょうか?ポイントは、最後の白のタクティクスの焦点はどこだったか?でしょうか。
答えは、
Qh3!です。
Qxf3と同じくメイトスレットですが、ポイントはd7の地点を守っていることです。d7へのクイーンサクリファイスが白の攻めのポイントでした。
棋譜並べに興味があるという方であれば、日本語の本ではチェストランス出版の本があります。
また、洋書でも大丈夫ということであれば、下記の本がよいかなと思います。量は膨大ですけどね。
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