エンディングにおいて、キングを狙う駒が少なくなり安全性を心配することがなくなるので、キングを積極的に利用することが必要になります。特にポーンエンディングではその傾向が顕著だと思います。
本記事ではキングの機動力の特徴について扱います。
はじめに
序盤の基本に続いて、エンドゲームの基本としてポーンエンディングの基本をシリーズ化しようと思います。
エンドゲームというと、勉強対象の図面があり、その局面からどう勝つか、引き分けるかを議論する内容が多いかと思います。このシリーズではそこにもう少しストーリー性を持たせたいと画策しています。そのため、少しくどいと感じる内容になるかもしれません。
ポーンエンディングとは
敵味方ともキングとポーンしか残っていない局面のことを呼びます。ただし、今回はポーン関係ないです。
キングの機動力
キングは前後左右斜めの8方向に1マスずつ進むことができる駒です。射程は短いですが、この動きができる駒は他にクイーンだけで、ユニークな特性であることが分かります。要するにキングは意外と強い駒なんです。
斜めに進めるということ
8方向のうち、特に斜めに進めるというのが意外に重要です。
当たり前と言えば当たり前なのですが、キングは縦にも横にも斜めにも動けるので、d4のマスからh8に移動するのも、d8のマスに移動するのも、h4に移動するのもすべて同じ4手かかります(下図)。
下図では黒キングはポーンに追いつきますが、すべて斜めに進まないと駄目なことが分かります。
同じマスに別の経路
さらに重要なのは右側3つ目のマスに到達するために右方向に3歩進むことと、右斜め前に一歩、右に一歩、右斜め後ろに一歩進んでも同じマスに同じ手数でたどり着けます(下図)。
このことを利用した有名なスタディ(作り手が作為的に作った局面図を用いた問題)があります。
レティのポーンエンディング
あまりにもべた過ぎて恥ずかしい部分もあるのですが、ハイパーモダンの貴公子、レティによる有名なポーンエンディングのスタディが一番キングの機動力を実感させてくれる問題かと思います。
上図がRetiが作図したポジションで、白番です。
一目見て無理と思える人はむしろチェスをわかっている人でしょうか。今、h5にいる黒のパスポーンに白キングは全く追いつけません。しかも、一歩足りないのではなく、三歩足りません。黒ポーンはh1で昇格するまで4歩、白キングはh1まで7歩かかります。
一つのポイントは当然ながら意味ありげに置いてあるc6のポーンです。これを使ってドローにするというのが、白の戦略です。ここで、同じマスに別の経路で行けるという手法が有効に働きます。
上図に示したように、白キングがh2に行くためには赤の経路(a)を使っても、青の経路(b)を使っても同じ6手掛かります。つまり、白は自分のパスポーンに近付く狙いと黒のパスポーンを追っていく狙いの二つを同じ経路で実現できます。
それでは実際に見てみましょう。
1.Kg7
1… h4
2.Kf6
やはり追いつけそうにありませんが、今度は白のパスポーンを守る手が生じます。黒はそれに対応します。
2… Kb6
こんどは白のパスポーンも落とされそうです。万事休すか!?
3.Ke5
ところがこの手で助かります。白キングは自分のパスポーンにも相手のパスポーンにも1手近づいています。この白のキングの手、一見どちらのパスポーンからも遠ざかっているように見えませんか?そこが心理的なトラップです。
ここから先、黒には白のパスポーンを取るか自分のパスポーンを進めるかの選択になると思いますが、どちらもドローになります。それぞれ見ていきましょう。
ケース1:白のパスポーンを取る
3… Kxc6
白はパスポーンを取られてしまったので、黒のポーンを止めに行くしかありませんが、簡単に追いつけます。
4.Kf4
次回で扱う内容ですが、白キングはポーンに追いつけます。
ケース2:黒のパスポーンを進める
こちらのパターンの方がやや難しいですが、白はドローにできます。
3... h3
白はもう黒のパスポーンには追いつけません。自分のパスポーンを死守します。
4.Kd6
白は自分のパスポーンを守ることに成功しました。
4… h2
5.c7
次に黒はクイーンを作れますが、白もクイーンを作れるのでドローです。
5… Kb7
守っても無駄ですが、一応見ておきましょう。
6.Kd7
ここまでくれば白パスポーンのクイーン昇格が防げないことが分かるでしょう。
もう一度初期配置を確認しておきましょう。
どうでしょう。また違った印象になるでしょうか?いや、やっぱり白絶望的な気持ちになる気がします。それだけ、キングの機動性には意外性があるということです。
まとめ
ポーンエンディングの基本として、なぜかポーンと直接関係ない「キングの機動性」を扱いました。この後のポーンエンディングを理解するうえでも重要だからです。
キングというのは四方八方に進めるだけで意外性のない駒だと思いがちですが、実際にエンドゲームで使ってみると意外性のある手が生じます。かのJohn Nunnもポーンエンディングはトリッキーだから気をつけろと語っていました。これもキングの意外な機動性に由来するのではないかと思います。
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