Netflixのドラマ「クイーンズギャンビット」の影響なのかどうかわかりませんが、ギャンビットという言葉に興味を持つ方が多いようです。この記事ではギャンビットの意味や特徴について説明します。
ギャンビットとは?
ギャンビットはチェスにおいて序盤で駒を犠牲にすること、あるいはそのような定跡の名前のことです。通常は1ポーンを犠牲にすることが多いですが、2ポーン以上犠牲にする定跡や、ポーン以外の駒を犠牲にするギャンビットも稀に知られています。
ギャンビットするメリット
駒をわざわざ犠牲にするわけですから、ギャンビットする側になんらかのメリットがあるはずでしょう。ギャンビットする理由は様々ですが、いくつかのパターンがあります。
ピースの展開
相手が犠牲にしたポーンを取ってきた際に味方の駒(ピース)で取り返すことで展開が早くなります。
ラインを開く
チェスにおいてポーンはチェスの魂とも呼ばれ、ポーン構造がゲームの展開を特徴づけますが、ルークやビショップの行き先を邪魔する邪魔者にもなります。ポーンを犠牲にすることで、味方のルークやビショップの効きを開き活動的にする狙いがギャンビットにはあります。
ギャンビットの種類
ギャンビットは数多く知られていますが、ここではそのうち代表的なものをいくつか紹介します。
キングズギャンビット
King’s gambit
ギャンビットと言えばこのキングズギャンビットを思い浮かべる人も多いはずです。19世紀には好んで指された定跡で、1.e4 e5 2.f4で始まります。
クイーンズギャンビット
Queen’s gambit
Netflixのドラマのタイトルにもなったクイーンズギャンビットです。1. d4 d5 2. c4で始まる手順のことを呼びますが、定跡としてはこれ以降の手によって名前が変わることが多いです。また、2手目にc4とせず、3手目以降にc4を指すことも多いです。
ラトビアンギャンビット
Latvian Gambit
1.e4 e5 2. Nf3 f5!?と黒から1手損でキングズギャンビットを指してくるようなギャンビットです。当然ながら定跡としての評判はよくありませんが、初見ではどう対処していいか迷う気もします。
スミスモラギャンビット
シシリアンに対するギャンビットで、1.e4 c5 2.d4 cxd4 3.c3 dxc3 4.Nxc3で始まります。ルークのためにセンターファイルを開き、手順でナイトを展開するという典型的なギャンビットで危険な変化ですが、3… Nf6としてこのギャンビットを避けることができます。
その他ギャンビット
以下ギャンビットの名前と手順のみ紹介します。
Evans Gambit: 1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.b4
Blackmar–Diemer Gambit : 1.d4 d5 2.e4 dxe4 3.Nc3
From’s Gambit: 1.f4 e5
Staunton Gambit: 1.d4 f5 2.e4
Budapest Gambit: 1.d4 Nf6 2.c4 e5
Scotch Gambit: 1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.d4 exd4 4.Bc4
Latvian Gambit: 1.e4 e5 2.Nf3 f5
Danish Gambit: 1.e4 e5 2.d4 exd4 3. c3
Elephant Gambit: 1.e4 e5 2.Nf3 d5!?
Englund Gambit: 1.d4 e5?!
Albin Counter gambit: 1. d4 d5 2. c4 e5
Benko Gambit: 1. d4 Nf6 2. c4 c5 3. d5 b5
など
ギャンビットの評価
定跡として数多く知られているギャンビットですが、定跡としての評価はどうなのでしょうか?基本的にはギャンビットする側が優勢にはならないとは考えられていると思います。
黒番のギャンビットは成立しない!?
ただですら評価的には微妙なことが多いギャンビットですが、黒番の場合にはより評価は厳しくなりがちです。
黒番はそもそも白番よりも1手遅いわけですから、ギャンビットで展開を早めても展開で優位に立つことが難しいことを考えると黒番のギャンビットの厳しさがわかるかと思います。
ベンコーギャンビットは例外か?
黒側からのギャンビットの中でもベンコーギャンビットは成立しているギャンビットと言ってもいいでしょう。対d4の定跡の中でもとてもポピュラー、というわけではありませんが、まずまず愛好者がいるかと思います。対e4で言えばアレヒンディフェンスぐらいのイメージでしょうか。
通常のギャンビットとは異なり、ガンガン攻めていくというよりはポーンダウンだけれども手堅いポーン構造を維持し、クイーン交換も有利に働くという不思議な定跡です。
白優勢とされるギャンビットもおそらくない
ならば白番であればギャンビットで優勢になれるかと言えば、それもないです。
白でも黒でも優勢になることがないのであれば、じゃあなぜギャンビットするのか?通常、ギャンビットが単純に好きだからです。より正確に言えば、ギャンビットした後の局面が指しやすい、指すのが好きということになるでしょうか。
クイーンズギャンビットはギャンビットか?
おそらく、ギャンビットした側が最も優勢と考えられているのはクイーンズギャンビットでしょう。ただ、クイーンズギャンビットとは「そもそもポーンを取り返せる」「通常ポーンを取らない」「取られても展開がよくなる訳でもない」など通常のギャンビットの特徴とは異なっているので、別枠で考えるべきと私は思います。
ギャンビットとは目されないサクリファイス
ギャンビットとは序盤のかなり早い段階で駒を犠牲にする手を呼ぶことが多く、定跡手順であっても手数が進んでいる場合でのサクリファイス(駒を犠牲にすること)はギャンビットとは呼ばれません。
序盤定跡の理論において定跡手順として、駒を犠牲にするものの「白にチャンスがある」、「黒十分に戦える」というような評価をされている手順が比較的多く知られています。しかし、そのような駒の犠牲はサクリファイスであっても、ギャンビットではありません(少なくともギャンビットとは呼ばれていない)。
上図はグリュンフェルドディフェンスで有名なエクスチェンジサクリファイスの手順ですが、ギャンビットと呼ばれることはないと思います。
まとめ
本記事ではギャンビットについて解説しました。様々な考え方はあるかと思いますが、私の立場としては定跡名などに「ギャンビット」と付くもののみギャンビットとして捉え、その意味について解説しました。
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