先日、URがよいパフォーマンスを挙げることがある場合がある理由について記事にしました。私自身、初めて参加した大会で1700台半ばという比較的高い仮レートが付きました。しかし、先日の記事にも書いたように、その後伸び悩むことになりました。
では、私は何かをしくじったのか?そのことについて本日は記事にしたいと思います。
しくじった?
私はみんなの憧れ、レート2000に到達しましたし(今はだいぶ落ちましたが)、いくつかのオープントーナメントでの優勝や入賞を経験し、女子チェスプレイヤーと結婚というチェスプレイヤーの夢(?)を成し遂げています。お前のどこがしくじっているのかと思う方もいるかもしれません。
しかし、私自身はチェスを始めた初期のころにもっと異なるアプローチをしていたらもっと早く強くなれたし、より強くなれたのではないかという後悔があります。
私(E)のしくじり
私のしくじりは主に以下の二つに集約されます。
自分の実力を勘違いした
今ではチェス界の良心と(某Sさんに)呼ばれる私ですが、チェスを始めたころはまだ大学生、ぱっと見は行儀良くとも、熱き血潮を抱えた若者でした。
要するに私もまだ若かったので、最初のトーナメントで好成績を収めたことで、自分の実力を過大評価するという病に陥ったわけです。
また、この病の恐ろしいところは、「上位者に勝つ」という勘違いを補強するような出来事が定期的に起こることです。チェスにある程度真面目に取り組んでいれば、上位の相手にアップセットを起こすことは誰にでもあります。しかし、アップセットを起こした際に、「運がよかった」と考えるか、「本来の実力を発揮できた」と考えるかはその人の心理状況次第です。
また、URで好成績を収めるようなタイプは何かのきっかけで高い集中力を発揮して実力以上の力を出すこともあるタイプで、アップセットを起こすことも多いのではないかと思います。
自分の実力を過大評価をしている人は、勝った際には「自分の実力を発揮できた」、負けた際には「(寝不足で/うっかりで/相手を舐めていて)実力を発揮できなかった」というような考え方をしがちです。
そのような考え方をしている人間が試合から学ぶことが可能でしょうか?私自身、そこまで露骨に自分を過大評価していたわけではないと思っているのですが、それでもどこか深層心理で自分はもっと強いはずだという根拠のない自意識を持っていた気がします。
私の一つ目のしくじりは、「自分の実力を過大評価していたためにトーナメントの結果を客観的に評価できず、成長にうまくつなげられなかったこと」です。
勉強方法が無茶苦茶
私は大学のチェスサークルにも当初所属しておらず、チェス関連の友人もいなかったために完全に独学でチェスを勉強していました。初期の頃の大会初参加(例会にも出てない)までに半年近く勉強していますが、その勉強内容も今考えると「イタイ」です。
ここで、私がチェスを始めた2002年の柏オープンまでに購入したチェス本を見てみましょう。アマゾンの購入履歴によれば、下記のような本を買っていました。順番は時間軸に沿っています。
- 639 Essential Endgame Positions
- The Ideas Behind the Chess Openings
- Queen’s Gambit Declined
- Attacking With 1 E4
- John Nunn’s Chess Puzzle Book
- Secrets of Modern Chess Strategy
- 1001 Brilliant Ways to Checkmate
- Capablanca’s Best Chess Endings
1はまずエンドゲームの本でした。私自身意外だったのですが、真面目に強くなるためにはエンドゲームをやらなきゃだめだと思ったのだと思います。ツイッターを眺めていても、チェス始めて間もないにもかかわらず、エンドゲームを真面目にやらなきゃと言っている人たちがいるので、あるあるなのかもしれません。今思えば、もう少し軽いエンドゲームの本で十分だったと思います。しかもこの本、明らかに解説が間違っている箇所があり、それに気が付いてから別の本を読むようになった経緯があります。本の選択は大事です。
2、3、4はオープニングの本です。2、3については当時のアマゾンで人気の本で(今でもQueen’s gambit declinedは人気があります)、書評などを見て購入したと思います。4については一度でいいからe4を指してみたいと思いつつ、結局読みませんでした。
5は比較的難しいチェスパズルの問題集で、当時の私には明らかにオーバースペックです。実際に読んでいません。
6は有名な本で、チェスの戦略というよりはチェスの戦略の歴史的な変遷について解説した本で、明らかに初心者が読む本ではありません。
7は有名なチェックメイトの問題集で、こういう本を読むことは大事だと思います。
8はカパブランカの棋譜集で、エンドゲームの解説に特化した内容です。よい本だと思います。
こうして見てみると「たくさん読んでいてえらい」みたいに思うかもしれませんが、私からするとピントがずれているなと思います。
戦略勉強した?
まず、戦略の基本を勉強した形跡がありません。 恐ろしいことに、私はSecrets of Modern Chess Strategy をはじめから終わりまで読んだのですが、この本は戦略を勉強する本ではありません。以前別の記事で書いたように、これまで常識だと思われていた戦略的知識の例外などを議論した本で、どう考えても初心者には逆効果の本です。
初大会参加後もたくさんの本を買って積読していたのですが、私がいわゆる戦略の基本を扱ったと言えるような本を買ったのは2005年のことです。チェスを始めて最初の数年は Secrets of Modern Chess Strategy だけが私の戦略の知識で、そのことが自分の成長を妨げていたように思えます。
タクティクスは?
上記の本を見ると、チェックメイトの問題集はありますが、いわゆるタクティクスの本がありません。John Nunn’s Chess Puzzle Book は一応タクティクスの本ですが、典型的なタクティクスの問題集ではなく、GMの実戦からのかなり難易度の高い問題を集めた問題集になります。
なによりタクティクスのモチーフを勉強した形跡がありません。当時の私は「読み」にはある程度自信をもっており、モチーフなど知らなくても「読めば」できるはずと思っていた気がします。今の私は「読みとタクティクスは似て非なるもの」と思っており、モチーフを勉強してパターン認識することがチェスには非常に重要であると考えています。
私の2つ目のしくじり
以上のことから、私の2つ目のしくじりは「自分に必要な要素が理解できず、非効率な勉強をした」ことです。チェスを始めて10年以内ぐらいの私は、チェスプレイヤーの中でもかなり大量のチェス本を購入していたと思いますが、冒頭5年くらいのチェス本の選択は不必要に難しい本や、結局全く読まなかった棋譜集、オープニング本などばかりでした。5年くらいたってようやく自分に必要で有益な本を選択することができて、実際にレートも上がってきたように思います。
まとめ
今回が私がチェスを始めたころに失敗したなと思っていることについて記事にしました。比較的典型的なパターンじゃないかと思っています。ツイッターを見ていても、私と同じしくじりをしそうな人がいるな、という印象があります。
自分を過大評価する自意識については若い人には仕方がない面もあるかと思いますが、自分のゲーム自体は(対戦相手が誰とか関係なく)客観的に評価できるようにしましょう。二つ目の勉強法については、チェスに関してなるべく信頼ができる知人を作ったり、コミュニティに参加したりして情報を得るようにしましょう。また、人の意見を鵜呑みにしなくてもいいですが、きちんと聞いて参考にすることができれば、無駄な勉強や出費をせずに済むのではないかと思います。私のブログもそのために書いているようなところはありますからね。
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