今回は旧チェスマスターブックスシリーズの最終回ということで、棋譜集を紹介します。河出書房新社には何の恨みもないですが、やはりポジティブな書評はできそうにありません。
今回紹介する本
今回紹介する本は棋譜集、つまりチェスの実戦のゲームを集めた本です。現在書店に流通しているチェス本の中で、唯一の棋譜集です。本としての客観的な特徴は以下の通りです。
オープニングごとに分類
本の構成としては、1ゲームごとに区切られており、そのタイトルがオープニングの名前になっています。必ずしも一つの定跡につき1ゲームということではなく、2ゲーム紹介されている定跡もあります。
ミニチュアが掲載
この本で紹介されている実戦は、ミニチュアと呼ばれる短手数で勝負がついたゲームが26局紹介されています。トップレベルでのゲームではなかなか短手数で終わるゲームをセレクトするのは難しかっただろうと推察され、有名棋士から聞いたこともない棋士のゲームがあり、さらには日本人同士の棋譜が一つ紹介されています。
図面が豊富
短手数のゲームばかりですが、それでも局面図は豊富に使われています。ある程度棋力のある方であれば、盤がなくても理解できるレベルかと思います。ただし、参考棋譜などは長手数が表記されているだけなので、盤が必要でしょう。
棋譜の記載方法への注意
一つ注意点としては、棋譜の記載方法に特徴があることです。これはこのシリーズ全体(+ヒガシコウヘイ氏の本も)に言えることなのですが、駒を取るマークとチェックメイトのマークが現在普通に使われているものと異なっています。
この本の中では「:」を駒を取るマークとして使っており、チェックメイトは×マークです。
通常は駒を取るマークは「x」、チェックメイトは「#」です。
個人的な感想
冒頭でも述べたとおり、あまりポジティブな印象は持てませんでした。
解説のレベル
率直に言って、解説のレベルが低過ぎるように思います。以下の3パターンのコメントが頻出します。
ここではe5もある
ここではe5, Nf6, c6, d5などもある
別のゲームではe5と指され、以下
4… e5
5. Nf3 c5
(中略)と続いて白が勝った。
冗談抜きでこのようなコメントばかりです。これが解説と言えるでしょうか?別の手を示すのであれば、狙いの違いなどを説明すべきでしょう。
影響力は思いのほか高い
今回、新たに読み直したわけですが、ああ、この変化/ゲーム知ってる、この本で読んだからか、というようなことがいくつかありました。要するにネガティブな印象を持っている私にすら影響を与えている本であると思います。その意味でも書店流通をしている本の影響力というのは無視することができないレベルだと思います。
そういう意味でも河出書房新社にはより良い本を残してほしいです。悲しいのは、クレイジーチェスもディープブルーVS.カスパロフも同じ河出書房新社の本ですが、現状で×品切・重版未定と表記されています。
もしこの本を読むなら
この本自体にはあまりいい印象はないですが、ミニチュアの棋譜集は初中級者に悪くない選択だと思います。長い試合の棋譜はなかなか集中力が維持できなくて、一日1局並べるのも大変だったりします。ミニチュアであれば、短手数で終わるので、集中力を維持したまま並べられます。
ただし、ミニチュアは序盤かせいぜい中盤に入ったぐらいでゲームが終了してしまうので、学ぶことができる事柄はオープニングの一般論やタクティクス、キングサイドアタックぐらいかと思います。いずれも初中級者に最適の内容ではありますが、戦略や終盤を学ぶことはできません。
また、この本でミニチュアを並べるとすれば、解説部分、特に上述のこんな手もあり得たと書いてあるだけの部分については飛ばしてしまっていいと思います。それよりも棋譜を味わうことに集中した方が得るものが大きいでしょう。
まとめ
今回で旧チェスマスターブックスシリーズの書評も最後になります。残念ながらこの本も私の基準ではおすすめできません。最後まで読む気にはなったので、勝ち方の基本戦術よりはいくらかマシとは思います。
もちろん、日本語で(特に書店に流通している本で)書かれたチェスの棋譜集はほとんど存在しないので、一定の価値はあると思っています。いっそのこと解説は無視して棋譜だけ並べるつもりで読んでみるというのはありかと思います。
コメント