Dvoretsky 最後のインタビュー パート2

皆さんはMark Dvoretskyをご存知でしょうか。有名な本を書いている人でしょ?というイメージかもしれません。元々は世界最高のチェストレーナーとして有名になった人です。2016年に亡くなり、その後Chessbaseのウェブサイトに彼の最後のインタビュー記事が3回に渡って載りました。当時非常に興味深く読み、ブログの記事でも取り上げようと思ったのですが、当時のブログに対する熱意が低く、結局記事にしないまま終わっていました。

今回、今更とも思いましたが、非常に面白い内容なので紹介しようと思います。

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最後のインタビュー パート2

本記事は2回目の記事についてです。今回も下のリンクの記事を抜粋翻訳して紹介します。

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タクティクスについて

タクティクスの能力を伸ばそうと思ったらどうすればいいですか?

インタビュアー

タクティクスの能力は実践的な能力だ。だから練習問題を解く必要がある。タクティクスにはたくさんの特徴がある。想像力や手筋の認知力、それに読みもある。読みはそれ自体にたくさんの手法がある。候補手や消去法、比較、相手のカウンターへの注視、などなど。だから、その中から伸ばしたい項目を選んで、それに応じた練習題を解く。それでタクティクス能力が向上するはずだ。

Yusupovについて

タクティクスの話の途中で少し話がそれてYusupovの話になります。YusupovはDvoretskyの生徒の中で最も成功したプレイヤーだと考えられています。

Yusupovの話が出てきたので聞きたいのですが、世界3位までになったYusupovはなぜ世界チャンピオンになれなかったと思いますか?

インタビュアー

うん、まず彼は二人のK(訳注:カルポフとカスパロフのこと。二人の頭文字を取ってtwo Kと呼ばれることも多い)のようなサポートを受けられなかった。また、彼の才能はカルポフとカスパロフほどじゃなかったんだ。努力で才能の違いを埋められたかもしれないが、カスパロフ自身も努力家だったからね。カルポフも彼のために努力してくれるチームがいた。サポートの欠如と才能、これがYusupovが世界チャンピオンになれなかった理由だよ。

非常に冷静というか冷徹な分析ですね。また、サポートを受けられるプレイヤーとそうでないプレイヤーがいるというのは社会主義国特有の事情でしょうか。中国の選手についても似たような話を聞くことがあります。

タクティクスの勉強にお勧めの本は

話は再びタクティクスの勉強法に戻ります。おすすめの本を聞かれたDvoretskyは以下のように答えています。

よい本はたくさんあるよ。強いプレイヤーならNunn(訳注:John Nunnのこと)やAagaard(訳注:Jacob Aagaardのこと) の本、そして私の本がいいと思う。もちろんその人のレベル次第だ。でも、レベルよりもチェスに対する姿勢が重要なこともある。(略)

熱意があれば難しい本から始めたっていいんだというようなことを言っていました。NunnやDvoretskyの本というのは具体的にどれのことなのか私には判然としないです。

Dvoretskyの本には人間の臭いがする

ここで話が少しそれて、インタビュアーのDvoretskyの本に関する印象について話が出ます。

あなたの本を読んでいると、この本は人の手によるものだと感じます。最近の本を読むとコンピュータによる変化を読んでいる気がしてきます。この違いはどこから来ると思いますか?

インタビュアー

トレーナーとしての仕事を始めたころ、どんなチェスの勉強にも心理的な要素を加えようと決めたんだ。どのトピックでもね。ディフェンス、アタック、優位を活かす、全てが心理的要素を含んでいる。だから、チェスプレイヤーがどのように問題に対処し、ポジションを考えているか記述しようとしたんだ。これが私のやり方なんだよ。こういうやり方は分かりにくいし、真似しづらい。本に載せているすべてのポジションについて生徒たちにに解かせていることも重要だね。全く知らないポジションは載せてないんだ。これが、君が人間的だと感じる理由じゃないかね。

Jacob Aagaardに対する評価

Quality Chess Blog » Jacob Aagaard Interview

Jacob Aagaardはチェスの本の著作、それもかなりハイレベルな本の著者として有名。自分の後継的存在のAagaardについてDvoretskyは以下のように語っています。

Aagaardは真剣に取り組んでいるよ。努力しているし、とてもいい本を書いている。人間的な要素については、ベストを尽くしていると思う。だけど、どの著者もそれぞれのやり方というものがあるからね。彼には彼の見方があり、私には私のやり方がある。いたって普通のことだよ。

エンドゲームとあの本について

Mark Dvoretskyにはたくさんの著作がありますが、やはり一番有名なのはEndgame Manualでしょう。名著と名高く、難解であるという評判です。

あなたは大変なエンドゲームの専門家として知られます。世界のトップの一人でしょう。エンドゲーム能力を向上させるにはどうすればいいと思いますか?

インタビュワー

まず、エンドゲームが二つのパートに分かれていることを理解する必要がある。エンドゲームの理論と実践だ。覚えなければならない理論的なエンドゲームのポジションはそれほど多くない。知識を獲得することは難しくないよ(訳注:マジか)。それこそが私のEndgame Manualでやっていることだからね(訳注:ま、マジか)深く理解して覚えなければならないことと、重要でないことを分けることは自然なことだよ。私は図と文字を大きくすることで区別したんだ。英語版では青字にしただけであんまり目立たなくなってしまったけどね。他の言語版では全部黒字だよ。私のEndgame Manualの理論的なポジションを覚えるのはそんなに難しくないと思うよ。

Endgame Manualの英語版の表示方法があまりよくないという評判は私も聞いたことがあります。とはいえ、Dvoretskyのこの発言には当然突っ込みたいところがあります。インタビュアーもそれを逃しません。

だけどマーク、Endgame Manualの理論的なポジションを全て覚えるのは不可能だと言っているグランドマスターがたくさんいるよ。

インタビュアー

そりゃ、どんなふうに学んだかに依るさ。ただ読んだだけじゃ無理さ(笑)。覚えるベストの方法は、ポジションを記憶にとどめるために技術を磨くのさ。本の中の問題を解いたり、自分の実践から作った問題を解いたりすればいいのさ。大会の試合で似たような局面が出るたびに練習を繰り返すのもいいアイデアだね。一つのポジションに何時間もかける必要はないけど、関連項目の詳細まできっちりチェックする必要はある。

例えば、ルーク+3ポーン同士で、片側が逆サイドに1ポーンアップしているポジションについて私は少なくとも5回はあなたの本で勉強しました。でも数か月もすると忘れちゃうんです。

インタビュアー

うん、それは最も難しいエンドゲームの一つだからね。そのエンドゲームに関するすべての理論を覚えるのは無理さ。でも、メインの結論は覚えていられる。そういったポジションについて100%正確に指せないからって心配する必要はないよ、いずれにしろ実戦では変化を読むものだからね。(中略)私が強調しておきたいのは、実戦では常に理論とは異なる要素が存在していることだ。だから、理論的な知識はガイド役にはなっても成功を約束するものじゃないんだ

カールセンについて

現在の世界チャンピオンであるカールセンについてもコメントしています。

最近Russian chess newsのインタビューに答えたよ。マグヌス・カールセンについて聞かれた時に、ノルウェーに訪問した時のことを話したよ。その時に私はノルウェーのベストプレイヤー(カールセン以外の)のトレーニングのために行ったんだ。そこでSimen Agdesteinに会った。彼はとても強いプレイヤーで、マグヌス・カールセンの元トレーナーでもあった。彼はカールセンについてとても興味深い話をしてくれた。カールセンの特徴はチェスに関する素晴らしい直感だ。Simenが言うには、カールセンの読みの能力はそこまでではない。Simenの方が読めることもあるらしいよ(笑)。でも、カールセンの感覚やビジョンは完璧なんだ。二つ目の特長は、カールセンは悪い結果を全く恐れていないことだ。だからどんな戦いの際にも精神的な力を温存できる。直感と恐れ知らずなところがカールセンの優れた点だね。

マグヌスはエンドゲームもとても強いですよね。

インタビュアー

うん、それは彼が優れた直感を持っているから、極めて自然なことだね。でも、過去のゲームでは、基本的なルークエンディングを間違えた事例があるよね。よく見れば分かるんだけど、そういった間違えは直感ではなく読みの問題で起こっているんだ。大抵の彼の間違えは読みが必要な状況で起こっている

他のトレーナーについて

Dvoretsky以外の著名なトレーナーに関しても聞かれています。若干含みがある回答のようにも聞こえるのですが、勘ぐりすぎですかね。

ChuchelovやTukmakovが Anish Giri やFabiano Caruanaなどのトッププレイヤーのトレーナーをしていますが、彼らについてはどう思いますか?

インタビュアー

尊敬しているよ。優れたトレーナーだよね。Tukmakovは強いプレイヤーでもある。何度も対戦したことがあるよ。Chuchelovについては数年前に Aeroflot(訳注:ロシアで開かれている大会の名前)で会う前はよく知らなかった。(中略)彼がオープニングのスペシャリストだということはすぐにわかったよ。結果が示しているだろ?これ以上言う必要はないよ(訳注:このあたり含みを感じます)。

まとめ

Dvoretskyの最後のインタビュー パート2を抜粋翻訳しました。どうだったでしょうか?私は、この記事を読んで、数千回挫折したEndgame manualを読み直すことを決めました

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